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行先のない旅 3
※閲覧注意※
話の展開上、愛のない描写をかなり含みます。地雷・苦手な方は回避してください。
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助けは来ない。
何故なら……俺は誰にも見つからないように、一人で汽車に乗ったから。
手荷物のトランクと羽織ってきたジャケットは車中に残され、俺は軍服の男達に両腕を掴まれたまま強引に暗いホームへと降ろされてしまった。
徐々に遠のいていく汽車の音と灯りに、絶望的な気持ちが込み上げてくる。
人気のない駅……ここは一体どこだ。
「離せっ! こんなことして……軍人なのに、卑怯だっ」
掴まれた腕を振りほどこうとしても、圧倒的な体格差の二人がかりでは敵いっこない。
「はははっ! 俺たちはこれから非番でな。いつもお前達のために働いているのだから、少しは奉仕してくれてもいいだろう。それに君は女みたいに可愛い顔して妙に色っぽい。汽車の中であんな憂い顔をして、君の方も誘っていたのだろう」
「なっ!」
一方的に信じられないことを言われ、自尊心をひどく傷つけられた。呆然と頭が働かないまま引きずられるように駅の改札を抜け、真っ暗な道へと突き進められてしまった。
男たちは俺を間に挟み卑猥な会話を続けている。
耳を塞ぎたい。目を背けたい。こんな状況……ありえない。叫びたいのに、あまりの恐怖に声が出ない。
「おいっお前は男とやったことあんのか」
「あぁ結構いいもんだぞ。しかもこんだけ上玉なら、最高の味だぜ! 汽車の中でいいもん手に入れたな」
「あっああ、はやくやりてぇな」
「そうだな。手っ取り早く味見させてもらうか。おいどこかに小屋でもないか」
「そうだな! あそこはどうだ? はぁ興奮してきたぜ」
二人の会話に震えあがった。本気で逃げなくてはと思うのに、いつの間にか脇腹に先ほどのナイフの刃を感じ、心も躰も急ブレーキをかけたように動かない。
「おいっ大きな声出すなよ、静かにしていれば悪いようにはしねぇ」
ナイフは抵抗でもしたものなら、何の迷いもなく俺を傷つける凶器にとなりそうな程、強く押し当てられていた。
嫌だ……こんなことなら信二郎や律矢さんから逃げるのでなかった。もう一度あの二人に会いたい。まだ死にたくはない……そのためにはこの躰を明け渡すしかないのか。諦めるしかないのか。
一体どこを歩いているか何も分からないまま夜道を連れまわされ、ギイ…っと古びた扉が開く音と共に、ドンっと床に突き飛ばされた。
「うっ……」
傷んだ木材がささくれ立っていて、とげが刺さりそうだ。そんなことを何故か冷静に考えていた。次の瞬間、躰にずっしりと見知らぬ人の重みを感じ、さらに次に耳に届いたのは、衣服がビリビリと裂かれる音とボタンがぶちぶちっと弾け飛ぶ音だった。
「くっ!やめろっ軍人として恥ずかしくないのか! これは犯罪だっ」
「そんな固いこというなよ。どうせ行く所がない家出人だろ? おいっ俺が先だからお前は暴れないように押さえておけ」
冷や汗と共に外気を直接肌に感じたことによって、胸元が露わになっていることを理解した。途端にカッと羞恥心が込み上げて忘れていた抵抗を再び試みたが、簡単に自分よりもはるかに強い力に、もがけばもがくほど簡単に組敷かれてしまうだけだった。
躰の上に大きな躰が跨いで、左右に躰を揺することもままならなくなると、カチャカチャと重たいベルトを外す背筋が凍るような音がした。
「なっ……」
こんなにあっけなく見ず知らずの男に犯られるなんて……我が身に起きたことが信じられない。何故こんなことになったのだ。汽車で人知れず去ることも許されず、軍人から辱しめを……このことは何を意味しているのだろう。
信二郎や律矢さんに正面から向き合わず、一人で逃げた罰なのか。こんな風に見ず知らずの男を受け入れてしまえば、もう本当にもう二度と会えなくなってしまうというのに。
俺のズボンもベルトを外され下着ごと下へ脱がされて下半身が露わになった。すぐに脚の間に他人に躰が割り込み、左右に思いっきり脚を広げられ、床から躰が浮くほど抱えられていく。
ぐっ……気持ち悪い。
他人と触れあうはずがない秘めた部分が、見知らぬ男のその部分と密着している。その肌の感触に寒気が走る。次の瞬間、男の太い手がいきなり俺の尻を左右に開いて確かめるように探って来た。
「くっ……」
何も考えるまい。これは暴力と一緒だ。俺は男だ。この位何でもない。そう強がって必死に震える歯を食いしばり、目を瞑った。
「へっ……ここ緩いな。なんだ……もうお前、男を知ってるんだな。こんな清楚な顔して淫乱か。まぁちょうどいい、慣らさなくてもすぐに入れそうだぜ」
「へへへつ」
「やめっ……」
慣らしもしないで、そんなことをされたら。恐怖で躰が震え出す。必死に逃げようと脚をばたつかせても、脚の間にがっちりと他人の躰が入り込んでいるので抵抗すら出来ない。
「あうっ! 」
唾液で濡れた指を突っ込まれ弄られたあと、すぐに呆気なく挿入されてしまった。
痛みしかなかった。
その先は……同じ行為を何度もされたことがあるのに、律矢さんや信二郎と共に感じた悦びとは別世界に、俺は容赦なく突き落とされた。
高い崖から一気に落とされたかのような衝撃が躰の内部を貫いた。
痛み……苦痛……裂けて壊れてしまう。
気持ち悪い。内臓がせりあがって吐き気がする。
早く終わってくれ……
「すっげぇいい躰だな」
「おいっ早く替われよ」
はっはっと獣のような酒臭く生臭い息遣いと唾液が雨のように降る中、ミシミシと床が軋む音がする。無理やりこじ開けられた結合部からは血が滴り落ちた。
躰を上下に激しく揺さぶられると、堪え切れなかった涙が頬を伝って落ちて行った。
泣くものか……
泣き顔なんて見せるものか……
男たちの顔を見たくなくて顔を横に背けるが、すぐに顎を掴まれもとに戻される。
「おいっ綺麗な顔見せろよ、隠すんじゃねぇよっ」
せめて口づけだけは避けたい、そんな願いなんて一つも叶わない。ヌルヌルと舌が這いまわり、侵入して口腔内も犯される。見知らぬ男の唾液にも犯される。
「はっ……うっ」
息苦しく涙で滲む目で、粗末な小屋の窓の先を見上げれば…そこには暗黒の空を食らうように妖しげな下弦の月が浮かんでいた。
欠けていく……
朽ちていく……
幸せがボロボロと音を立てて崩れていく。
月があまりに冴え冴えとして見えるのが怖くなり再び目をぎゅっと閉じた。
あまりの痛みの連続に次第に意識が朦朧としていく。
次第に自分が置かれた状況が、夢が現実か分からない境地になっていた。
これは夢なのか……俺なのか、これは………
まるで平安時代の装束のような重たい着物を身に着けているのに、何故かこれは自分だと夢の中の俺は理解していた。
絶望と悲しみで押しつぶされそうな胸を掴むように押さえ蹲り、手で口を押えて嗚咽を堪えている。
(耐えられない……こんなこと……一体いつまで我慢すればよいのか)
躰にはよく知っている…さっき体験したばかりのあの鈍い痛みが走ってた。
次の瞬間、その光景は白い煙のように消え去り、また違う姿になっていた。
一体なんだ? この夢は……
今度は俺は剣を持っていた。鎧を身につけ、まるで歴史物語に出てくる異国の武官のような姿をしていた。俺は、大理石の真っ白な廊下の真っ白な柱に寄りかかり天を仰いでいた。
(どんなに穢れてしまっても……君に…会いたい。それは許されることなのか……)
えっ……これは……どういうことなのか……
この夢はなんだ?
俺は誰に会いたいと願っているのか。
それを確かめたくて目を必死にこじ開けると、そこには先ほど見上げた下弦の月が映るのみだった。
****
あれからどの位時間が経ったのだろう。軍服姿の男たちは消え去り、粗末な小屋には俺だけになっていた。
真っ裸の俺の躰には、破かれたシャツがお情けのように掛けられていた。このままここにいてはいけない。早く服を身につけねば……そう思うのに躰がびくとも動かない。
肌寒い……このままでは駄目だ。
「痛っ」
引に弄ばれ裂かれた躰が悲鳴を上げている。
半身に広がる鈍い痛み、目を閉じれば浮かぶ信二郎と律矢さんの顔。
「俺は……何てことに……」
涙すらも凍る体験だったこと忘れられなかった。
こんなにもまざまざと……も心も頭もすべて一部始終、の身に起きた惨事を覚えていた。
信二郎の記憶を失ったように、今宵のことも忘れたかったのに何故だ。
惨い……こんな酷い記憶を抱えて生きて行かないといけないのか。俺はもう無理だ。生きていけない。もう君たちに会えない。必死に堪えていた涙が嗚咽と共に、とめどもなく暗闇に流れていく。
「うっ……うっ……う……くっ」
その時、小屋へ近づいてくるの足音が聴こえた。
こんな姿を誰かに見られたら、また大変なことになったら。早くこの場から逃げないと。そう思うのに、躰は緊張で強張り、まるで張り付けられたかのように、朽ちた床の上から少しも動けなかった。
ギィ……と再び古びた扉が開く音がし、それと同時に床が軋ませながら近づいて来る足音が聞えた。
「ここに、誰かいるのか」
「っつ」
男の声と共に提灯の明かりが、俺の躰にまで届いてしまった。
「おいっ大丈夫か。しっかりしろ!」
あとがき(不要な方はスルーで各自ご対応をしてくださいね)
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志生帆 海です。いつも読んでくださってありがとうございます。
今日の鬼畜な展開ですみません。こういう内容を更新するのに結構勇気がいります。夕凪はもともと『重なる月』のパラレルとして書き始めましたので、洋に繋がっていく人物でもあったのです。『月夜の湖』の洋月と『悲しい月』のヨウとは少し立場が違いますが……凌辱された経験を持つ点では同じです。
そんな訳で今回かなりつらい運命を背負うことになってしまいましたが、最終的には愛する人とハッピーエンドを目指しています。リアクション等いつもありがとうございます。更新の励みになっています。
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