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君を探し求めて 3
もうすぐ……もうすぐ夕凪に会える。こんな状況なのに呆れてしまうが、俺には再び夕凪の顔を見られる歓びの方が勝っていた。
「夕凪っ戻ったぞ! 」
ところが信二郎によって開かれた襖の奥の和室には、誰の姿もなかった。慌てて客室に入ると部屋の隅に綺麗に整えられた浴衣が、ぽつんと置いてあるのみで、人の気配はなかった。
「夕凪? 夕凪どこだ? 」
信二郎が辺りを見回し焦り出している。
あぁ……ここにはもう夕凪は居ないのだ。そう悟るのに、さして時間はかからなかった。
信二郎の焦りをひしひしと感じる中、俺は何故か冷静にその状況を受け止めていた。
「おいっ君、この部屋にいた人を知らないか」
信二郎の声が一際大きくなったので振り向くと、部屋の前で庭木を剪定していた若い庭師に駆け寄り問い詰めていた。
「痛いなっ。お客さん乱暴ですね」
「この部屋にいた男性を、君はずっと見ていただろう」
「ふっ気が付いていたんですか」
「あぁ君はずっと見ていた。貪欲に物欲しそうに」
「失礼ですね、俺はただあの男性が苦しんでいるように見えて気になっていただけですよ。真昼間からお客さんから男娼のような扱いを受けるのが、気の毒でね」
「何をっ! お前は本当に行方を知らないか」
「さぁね……知りませんね」
「本当かっ」
かっとした言葉で煽られた信二郎が、今にもその庭師を殴り飛ばしそうな勢いだったので、俺は慌てて制した。
「信二郎、落ち着け。夕凪とお前は一体何処へ行くつもりだったのだ? 」
「……それは」
「それは夕凪の意志を尊重して決めたことなのか。夕凪はそれが嫌で逃げたんじゃないか」
「そんな……そんなはずはない」
自信なさげにうなだれている信二郎を見て、溜息が漏れた。
そうだ……今はこんなことを争っている場合ではない。
「まずは夕凪の行方を探すのが先決だろう。今のあいつを一人で歩かせるのは危険だ」
「あぁ確かにそうだな」
俺が抱いたからか、それとも信二郎が抱いたからか。ふたりの男を知った夕凪の躰から醸し出される色香は、壮絶だった。こんなにも俺達を夢中にさせる夕凪がよからぬ奴に何かされないか。その心配が一気に駆け上がった。
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