君を探し求めて 14

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君を探し求めて 14

「あんたさ、もしかしてあの青年の彼氏ってわけ?」  そう海風という青年に問われて、一瞬考えてしまった。  はたして……  私は夕凪の恋人になれたのだろうか。  夕凪は私と律矢のどちらにも愛された。  夕凪の方はどうだろう。  私と律矢が同時に現れたらどうするのか。  私の手を取ってくれるのだろうか、その確信は抱けない。 「……そうなりたいと思っている男だ」  率直にそう答えると、海風は豪快に笑った。 「随分正直なんだな。なぁあんた、何の仕事してんの?」 「私か。私は京友禅の絵師だ」 「へぇ着物の絵師さんだって! それはちょっとは俺と縁があるな」 「縁とは? 」 「俺はまだ学生だが、うちの実家が静岡では老舗の筆屋なんだよ。手書き友禅で使用される彩色用筆や線描き用筆なども扱っているぜ」 「それは縁があるな。今度ぜひ見せて欲しいものだ」  幾らか社交辞令的に返答すると、気を良くしたようだった。 「おっそうか。じゃあ俺も一緒に大船まで行くよ。あんたはこっちの人間じゃないだろう。俺は実家の取引先が大船や鎌倉の方にあるから、あの辺に詳しいんだ。あんたの大事な人を一緒に探してやるよ。」 「本当か。それは助かるな」 「あぁ、俺もずっと気になっていたからな。よしっそうと決まればすぐに行こう」  思いがけず縁が広がったようだ。強力な助っ人も現れたことだし、夕凪の手がかりが掴めるかもしれない。 **** 「夕凪、もうそろそろ中に入れよ。まだ躰に触るだろう」 「流水さん」  流水さんから声を掛けられて、はっとした。  太陽はもう傾き、橙色に染まる世界が庭に生まれていた。寺の庭に咲く花を夢中でスケッチしていたので、気が付くとあれから随分時間が経っていたようだ。 「はい。そうします」 「そのさ……もう躰はいいのか」 「えぇ……今日はもうだいぶ……」  なんとなく気まずい会話を交わしながら部屋に戻った。それから夕食をいただきお風呂にも入らせてもらった。 「さぁ、もう寝なさい」 「はい、おやすみなさい」    だが、床についてもなかなか寝付けない。その理由を俺は知っている。    絵を描いている時は忘れられていたのに、あのおぞましい出来事も、親に捨てられたことも、律矢さんや信二郎のことも。何も考えずに悩みも忘れて無になれたのに。  こうやって一人で床に臥せっていると、言いようのない恐怖が押し寄せて来る。引いたと思った波が、高波となって襲い掛かってくるように、その中で俺はいつまでも手足をバタつかせて、もがき苦しんでいる。  暗闇が怖い。  あの日のことを嫌でも思い出してしまう。  真っ暗闇で相手の顔もよく見えない状況だった。  あの悪夢のような出来事は……嵐に巻き込まれたような衝撃、喪失感……こんなに汚れてしまった躰は、もう二度と元に戻らない。だから、信二郎や律矢さんに会うことも叶わないだろう。もういっそこの寺で、このまま無の境地で過ごして行くのも良いのかもしれない。  寒い。  怖い。  小刻みに寂しく震え出す肩を、ぎゅっと自分の手で押さえつけるように抱きしめて、必死に眠りにつく。  こんな寂しい夜が幾度となく繰り返された。
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