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夜空に描く想い 4
【R18】
「夕凪……おいで」
「あっ……」
信二郎に腰を抱かれ、庭先の縁側に誘われる。
祇園にある小さな町家の信二郎の自宅兼作業場には、小さな庭があった。
「ここに座って」
手を引かれ軒下に座らされると同時に、そのまま板敷の廊下に押し倒された。
えっ……ここは半屋外だ。
砂利と小さな庭園があり、その先には塀があるものの隣家との距離は近い。
「駄目だ! こんな場所で」
「塀があるから大丈夫だ。声を出さなければ分からない」
「むっ無理だ」
有無を言わせない信二郎の手が、着物の足元を割ってすぐに侵入して来てしまった。こんな場所でこんなことを……今までの自分の中では許されない行為だ。だが経験したことがない快楽に俺は簡単に溺れてしまうようになった。何故なら信二郎の筆を持つ手が巧みすぎるから。
度を越した快楽は怖くもあり、俺は必死に信二郎の背中に手をまわし、必死にしがみついた。すると信二郎の口づけが熱く熱く降って来た。
夕陽を背に浴びた信二郎の黒髪が見事だと思った。
凛々しいその顔。俺を求めてくれるその表情に次第に煽られてしまう。
口づけが首筋を這うように降りて来て、そのまま襟元から両肩を一気に剥かれ、躰中を万遍なく舐められると、ぞくぞくとした快楽が走り抜けた。乳首を前歯で甘噛みされれば躰がトンっと上に跳ね上がった。そのままジュッと音が立つほど吸われば、堪らず声があがってしまう。
「くっ……ふっ……ん……ん」
「しっ、静かに」
鼻に抜けるような甘い声が堪えても漏れてしまうと、信二郎の大きな手で口を優しく塞がれた。もう着物は帯のところにひっかかりるだけの、全裸のような状態だ。
信二郎は先ほどの筆を徐に手に取り、俺の躰に一気に降ろした。
柔らかい筆先が触れそうで触れない距離で行き来する。
躰に風が走る。
それは快楽という名の風だ。
乳首の周りに弧を描き、そのまま脇腹、下腹部へと……駆け下り、筆はくるくると回りながら、強弱をつけて俺の躰を縦横無尽に走り抜けていく。
気が付くと俺のものは勃ちあがり、透明の滴がぽたぽたと腹の上に落ちてきていた。
「夕凪、だいぶ濡れているな」
信二郎は巧みにそれを筆先で絡めとった。
筆は水分を含み濡れた。
筆先はまだ固く閉じている入り口をも刺激してくる。その度に泣きたいくらい恥ずかしく、同時に泣きたい位気持ち良くなった。
「あっ……駄目っ信二郎、もう駄目だ!」
「そろそろいいか」
信二郎は筆を置き、一気に俺の足を左右に大きく開き、熱いものをぐいっと押し当てて来た。
「はうっ」
衝撃の反動で喉が反り、空を仰ぐような姿勢になった。夕焼けで茜色に染まる空を、俺は見上げた。
今……凪の時間だ。
世界の音が消えてしまったかのような中、お互いの息遣いと床が軋む音だけが聴こえていた。
こんな快楽に俺はどうして……
信二郎によって植え付けられ、変わっていく躰。
怖い。でも気持ちが良くて、もう逃れられない。
このまま信二郎と共に朽ち果ててもいい。
揺れる空を見上げながら、そんなことを躰の奥を何度も何度も突かれながら思っていた。
****
「あの、どうかしましたか」
筆屋の男に話かけられて、はっと我に返った。
俺は一体こんな状況で何を思い出していたのか。思わず頬がかっと熱くなってしまった。
「あっいえ、これにします。この筆に」
「夕凪、気に入ったのがあったかい? 」
「湖翠さん……」
湖翠さんは嬉しそうに、その筆を購入してくれた。それから染料など必要なものも一式揃えてくれた。そんな様子を筆屋の青年は不思議そうに見つめていた。
そんな視線に気が付いた湖翠さんが俺に声をかける。
「夕凪。もういいから部屋に戻りなさい。その筆は持って行っていいよ」
「あっはい」
急に恥ずかしくなってしまった。さっき俺が頭の中で考えたこと見透かされていないだろうか。下半身が疼くような何とも言えないだるさを感じながら、部屋に戻った俺は部屋の片隅で膝を抱え俯いた。
なんであんなことを思い出したのか。きっとこの筆……のせいだ。あんなこと思い出すなんて最低だ。もどかしい気持ちに埋め尽くされそうになり、必死に息をした。
信二郎のことは、もう考えてはいけない。
あの日信二郎の元から逃げ出し京都を捨てたのは、俺じゃないか!
それに自分の躰を見てみろ。見知らぬ誰かに犯されたおぞましい身じゃないか!
「くっ……うっ……う…」
しかし一向に止まらない疼きに困惑し、途方に暮れてしまった。
一体どうしたらいい?
この躰の持て余した熱の行き場がないんだ。
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