羽織る 7

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羽織る 7

 夜桜の下で抱き合って口づけを交わした。  信二郎丈から降り注ぐ深まっていく口づけは甘く蕩けるようで、ここが野外であることを思わず忘れてしまうほどだ。  どう見てもおかしいだろう。  女物の着物を頭から羽織っていても分かるだろう……俺が男だってこと。僅かに残った理性で、このまま止まらなくなってしまうのを阻止しようと足掻く。 「あっ……信二郎っ……んっ……お願いだ。ここじゃ嫌だ、ここは駄目だ」  男なのに自分からこんな声が出るなんて信じられない。淫乱な声だ。縋るように哀願するように信二郎の胸に手を置いて躰を離そうと試みる。そんなことお構いなしに信二郎は俺の腰にその逞しい腕を回しギュッと自分の方へ抱き寄せ、さらに深い口づけを落としてくる。  密着する信二郎の厚い胸板を直に感じると、膝がガクガクと震え出し立っていられない。 「信二郎っ!」 「ふっ……夕 凪。確かにここじゃ集中できないよな。こっちへ来い」 「えっ? お……俺、もう帰らないと」 「何を言う。こんなになっているくせに」  着物の裾からぐいっと手を挿し入れられ、俺のものに強引に触れてくる。思わず咄嗟に腰を引いたが信二郎の指を感じると、俺の躰は途端に飛び跳ねるように反応してしまった。  こ……こんな反応、嘘だろう。  俺がまさかこんな野外で……男同士で、こんな……はしたないことをするなんて信じられない。自分が信じられない! 「いやっ……やだ! 」 「夕凪、こんなにとろとろに蜜を溢れ出しておいて、よく言うよ。ちょっとこっちへ来い」  再び信二郎に腕を強引に引かれ、薄暗い路地に連れ込まれる。あぁ……桜吹雪はこんな路地奥まで届いていたのか。そこはまるで桜の絨毯のように地面が桜色に染まっていた。  俺は路地の塀に躰をドンっと押し付けられる。はっと我に返ると俺を見下ろす信二郎の髪は風にたなびき、桜の花びらが幾つか付いていた。  信二郎の漆黒の髪の毛に桜の花びらが纏わりつき、なんとも妖艶な雰囲気で溢れている。  こうやって暗闇でほのかに照らされた灯りで俺を見つめる信二郎は男らしい魅力で溢れ、思わず俺の心臓までドクドクと波打ちだす。  信二郎になら……どこで何をされてもいいのではと俺の理性も見事に崩れ落ちていく。信二郎はもう一度俺の躰にふわりとあの着物を羽織らせ、すっとしゃがみ込んで俺のものを着物の裾から出し、おもむろに口に含んだ。  突然外気に触れたそれはビクンと震えてしまった。そしてそれは信二郎の舌で弄ばれ始める。 「あぁっ馬鹿っこんな所で! やっやめろ! 駄目だ! あぁ……」  先端を舌先で丁寧に愛撫されれば、俺の躰はますます震え出す。 「信二郎はずるい……そんなことされたら……」  手を添え周りも丁寧に扱き出し、舌も使い丁寧に美味しそうにぴちゃぴちゃと卑猥な水音を立てながら、責めてくる。 「いやだっ! もう駄目……で…出てしまうっ」  俺はそんな信二郎の肩に手をつき、頭を横に振ってその快楽から逃れようと必死だ。 「んんっ……んっー」  見上げれば銀色の輝く月の下、 まるでこれは現実の時間ではないかのように、桜の花びらがふわふわと風に舞っている。 ふわりふわり 月を見上げる俺の顔にも 羽織る着物にも 俺のものを喰らう信二郎の背中にも 至る所に桜の花びらは触れて舞っている。 「はぅ……あぁもぅ駄目だ。信二郎……」  信二郎の口淫によって極限まで高められた俺は背中にぞくりとした快楽が走ったかと思うと、 そのまま信二郎の口の中に白濁としたものを放ってしまった。  ゴクリと信二郎の喉が鳴った。 「ばっ馬鹿! 飲むなよ! そんなもの」  もう……もう涙で霞んで月も見えない。 「ばか……馬鹿……馬鹿……だ、お前は」 「夕凪、美味しかったよ」  口から迸るその言葉をさえぎるように、信二郎が唇をチュッと合わせてくる。ほのかに苦い口づけに戸惑いながらも、興奮し脱力した躰を信二郎が抱きしめてくれるのに身を任せた。 『羽織る』 了
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