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そんな不思議な同居生活に転機が訪れたのは、一年経った八月の猛暑日。
その日僕は、暑さに外出する気にもなれず、疫病神が見当たらなかったのを良いことに成人雑誌を堂々と眺めていた。
そこに突然、インターホンが鳴った。僕は慌ててベッドの下に本を隠すと、渋々ながら玄関へと向かう。
シラけた気分でドアを開けた僕は、我が目を疑った。
そこには同じ大学のミス・キャンパスとして有名な桜田さんが立っていたのだ。
白のフリルのワンピースに麦わら帽子を被って、まるで清楚なお嬢様のようだった。
「ここ上島くんの家って聞いたから……ちょっと寄っちゃった」
恥ずかしげに言う桜田さんに、僕は訝しく思う。でも、密かな好意を寄せていた僕は、「よかったら上がってく? 外暑いしさ」と言って入るように促した。
僕の下心を知ってか知らずか「ありがとう。お邪魔します」と言って桜田さんが部屋に上がっていく。
「散らかっててごめんね」
僕はそう言いつつ玄関のドアを閉めていると、「なによこれ!」と桜田さんの絶叫が聞こえてくる。
驚いた僕は急いで部屋に戻るなり、唖然とした。隠したはずの成人雑誌が、開かれた状態で部屋中に置かれていたのだ。それもさっき見てたのだけでなく、他のコレクションもだった。
「えっ……い、いや……なんだろう……」
頭が真っ白になった僕は、上手い言い訳もできずに立ち尽くす。
「ずいぶんと散らかっているのね……」
桜田さんは侮蔑した表情で僕に一瞥くれると、そのまま横を通り過ぎて部屋から出ていってしまった。
玄関の扉が閉まる音を聞きながら、僕はその場にへたりこんだ。
まさかこれは疫病神の仕業なのだろうか……問い詰めようにも、当事者は一向に姿を現さない。僕にはそれが答えだと思えて、腸が煮え繰り返っていた。
無害だったからこそ、一緒の生活にも堪えてきた。でもこうなってしまった今、出て行ってもらうしかない。家賃を納めているのは、僕なのだ。次現れた時には、ここから出て行って欲しいと言おう。僕はそう心に誓った。
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