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side:傍観者
――僕は、貴方のやり方には賛成できません
緑玉の如く美しい瞳に、強い輝きを秘めて、彼は、俺にそう言った。
その時を思い出しただけでも、自然と笑みがこぼれる。
――貴方はどうして「彼」を追いつめるようなことをするんですか
痛みと熱を伴う左頬に触れながら、彼の言葉を反芻する。
わざと避けなかったとはいえ、〝人間″に殴られるとは失笑ものだ。
まるで夜空に金色に輝く満月を思わせる髪をした、〝弟の大切な友人″。
なんて、純粋な子なのだろう。
なんて、自分の心に素直な子なのだろう。
君のその素直さが、正直うらやましいと思う。
いや違うな。
嫉妬?
やれやれバカげている。
俺にとって君は、眩しくて遠い存在なのかもしれない。
残念だけど、月と闇は決して相容れないんだ。
もしかして弟にとっても君は、そういう存在なのだろうか?
決して交わることはない、けれども二つは永遠に隣り合って存在する。
夜の闇夜を照らす、黄金の月。
さて君は、弟の〝光″になれるかな?
うん、やはりこの感情は嫉妬か。
――貴方のやり方は、間違っている。
そう言われたとき、俺は何を思ったのだろう?
何を考えたのだろう?
君に何がわかる?
別に分かってもらえなくてもいいんだ。
君にも、弟にも、誰にも分かってもらえなくてもいいんだ。
だって、これは俺の自己満足だから。
俺が勝手にしていることだ。
誰かに認めて貰おうとか、報われたいとか、そんな気持ちは何一つ無い。
俺は、弟のために……いや、俺自身のために、行動しているのだから。
――僕は「彼」を助けに行きます
その瞳に一変の曇りもなく、彼は断言した。
揺るぎない強い意志がそこにはあった。
あぁ、おまえには、こんなにも素晴らしい友がいたんだな。
俺が離れている間に、こんなにも強い、人との繋がりを築いていたんだな。
おまえのためなら何でもすると、彼は言っていた。
人間のくせに。
ただの人間に、何ができる?
弟を助けるどころか、その場所にさえたどり着くことは不可能だ。
俺にはない強さを瞳に秘めた彼に、現実を突きつけてやる。
まっすぐすぎるこの人間に、弟の友人を気取るただの人間に、ちょっと意地悪をしたくて。
そう言ってやった。
けれど、
――誰が不可能だと言ったんですか?
誰かとかそういう問題ではなく、現実的に考えて不可能だと言ってるんだ。
――誰か過去に失敗した人でもいるんですか?
そんなの知るわけない、というか、そもそも人間がそこに行くこと自体がありえないんだ。
――だったら問題ありません
いやいや、大アリだって。
――やってみなくちゃ、何もわからないじゃないですか
……やってみるもなにも、不可能だって。
――貴方が何と言おうと、僕は行きます
あの瞳から、目が離せなかった。
人っておかしな生き物だよな。
何で他人なんかのために、自分の命をかけられるのだろうか。
――他人なんかじゃないです。「彼」は僕の大切な”友達”です
友達、ねぇ……人ではない俺には、理解できないよ。
***
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