side:怪盗

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side:怪盗

誰かを失うのが嫌だった 何かを失うのが嫌だった もう、あんな思いはしたくないから―― そして、それはあまりにも唐突すぎた。 「もう、俺に関わるな」 何の感情の欠片も感じられない氷の言葉。 それは、僕の胸に鋭く突き刺さる。 「……どうして」 言葉が出てこない、心がその言葉の意味を受け入れることを拒絶する。 彼は、もう一度繰り返した。 「もう、おまえは俺に関わるな」 全ての感情を押し殺した、無機質な声。 僕に背を向けている彼の顔は見えない。 ただただ、胸の奥が、とても痛い。 心が熱を失って、急速に冷たくなっていく、氷のように冷たくなっていく。 どうして、振り向いてくれない? どうして、こっちを見てくれない? 彼は動かない、何も言わない。 「なんでだよっ! なんでっ……ッ」 どうして? どうしてなんだ――? 彼の背中が小さく震える、けれども決して振り返らない。 拒絶、いや、違う。 「……もう、」 彼が、かき消されそうなほど、か細い声でささやく 「おまえを巻き込みたくないんだ」 それは彼の小さな決意。 このとき気づいてしまった、彼にこんな決断をさせたのは自分だと。 「――」 彼の名前を呼ぶ。 彼は一人で行こうとしていた。 彼は孤独の道を選んだ、選ばせたのは僕だ。 だから止めなくてはいけない、行かせてはいけない。 彼を――死なせてはいけない。 彼はゆっくりと歩き出した、僕は追いかけようとした。 「来るな――」 彼が僕の名前を呼ぶ。 それだけで僕の足は、地面に縫いつけられたかのように動けなくなった。 分かってしまった、その短い彼の言葉の中に潜む真の意味を。 彼は振り返らない、立ち止まらない。 「待って……ッ!」 僕の声がむなしく響く。 一度だけ彼が立ち止まった。 見えないのに、彼の唇が動いて言葉を紡いだのが分かった。 ――さよなら、と *** キミは何もわかってない。 だから、そうやって何でも一人で抱えこんで、一人で苦しもうとするんだ。 そうやってどんどん孤独に向かっていくんだ。 どうして、全部自分のせいにしてしまうんだい――? キミだけの責任なわけないじゃないか。 キミ自身の問題? ふざけるな、そんなの……身勝手にもほどがある。 だから何だって言うの!? 今さらだよ、今までだって様々なことがあったじゃないか! どうして? どうして、僕を信じてくれないんだ――! キミが何を思って、何を考えて、そんな決断をしたのか、わからなくもない。 けど、本当の意味をキミ自身から聞きたい。 だから、僕は行くよ。 これは、キミの願いを無視する形になるんだろうね? あとで怒ってくれてもかまわないよ。 でもね、キミがそんなことをして、僕が喜ぶと思ったのなら、それは大きな間違いだから。 これだけはハッキリ言っておきたい。 僕にとって、キミは大切な存在なんだよ? わかる? キミがいないと意味がないんだよ。 キミを犠牲にした平穏なんていらない。 そんな世界は、僕にとってはまがい物なんだよ。 だから―― ――今、助けに行くよ。             <END>
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