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子供達に声をかければ、親が連れ帰ってしまう。私に無礼を働いてはいけないからと。
子供達は私を嫌う。私に関わると、外で遊ぶ事が叶わないから。
書物は良い。外の事は何も気にしなくていいから。逃げていくことも無い。好きな時に、好きなだけ。
本もいいけれど、森の中で動物達と戯れるのもいい。穏やかで暖かい。私を気にする村の者も居ない。
「私にも、森のみんなが居たから、寂しい事は無かったよ。…私は、神子だから、他の人より特別であって、慣れ親しんではいけない立場だったの。それだけ」
〈ピ?〉
「…おぼろの言うとおり、私も人間ではあるけれど。少なくとも、村で動物達と意志を通わせたり、物を触ることなく動かしたり、できるのは私だけ」
叡雅さんは私が自然に愛されてると言う。その通りなのだろう。
動物達に襲われることは無い。水で溺れたことも。私の不注意で怪我をすることはあるけれど、自然のものが私に害を与えると言う経験はない。
〈ピィ〉
「ご飯を貰えないのではなくて、…ええと、穢れをあまり溜め込んではいけないから。お腹が空くことより、穢れを入れないことの方が大切だから。ただでさえ、普段の生活の中でも穢れは溜まる」
〈ピッ〉
「おかしくは、ないと思うけれど…。ここは叡雅さんの神域だもの。穢れなど、ないでしょう。食べても、問題ない、はず。それに、叡雅さんは食べてもお怒りにならないのだから。…いいの」
だって、神子は叡雅さんに捧げる為の供物。その為に穢れを溜めないようにして、禊にて浄化してきた。
あの日、あの時、死ぬはずだった。死ぬことができるはずだった。生贄だから。
「それが、まだ生きていて、ここに穢れはなくて、叡雅さんは私がここに居ることを望んでいて。どう生きていけばいいのだろうね。叡雅さんは私の好きなようにとおっしゃる。でも、私が知る生き方などね、無感動に、居ること。村の者の真似をしたらいいのだろうか?」
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