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「えいがさん」
『どうかしたか?』
「…いいえ。…ただ、少し口に出しただけです。申し訳ありません」
『良い。淡雪に呼ばれるのは好ましいゆえ』
『んんん、かわいい♡ 妾の事、まぁったく眼中に無いのねぇ』
…なんと、いうか。傾月さん、2本の尾が同時に揺れてて、とても気になる。目を開けると、どうしても視界に入ってしまうのだ。
『あら? 淡雪ちゃん、尻尾を触ってみる? うふふ♡ 大歓迎よぉ? 妾の自慢の尻尾だものぉ』
ゆらゆら、ふさふさ、目の前で揺らされる。
「ええと…?」
『其方が触れたいのなら触れさせてもらうと良い。逆に、そうは思わないのならば断れば良い。好きな方をお選び』
「…それ、なら…断らせて頂いても、良いでしょうか…?」
気になるのは、触りたいから、とかではなくて…ええと、あまりに忙しなく動くものだから…不思議で?
それに、触るのなら、叡雅さんの尾が、良い、な。
ふわふわで、ぽかぽかして、暖かくて、心地いい。
『良いけれどぉ、てっきり触りたくて見てると思ったのにぃ。でもおどおどしてる淡雪ちゃんもイイわ♡』
最初は瞳も潤んで悲しそうだったのに、すぐに潤んでいたはずの瞳は適度に乾いて、うっとり頬に手を当てて微笑んで。
傾月さんは、とてもわかりやすい。こんな私にも。
『して、傾月よ。住み着くのは良いが…何を差し出す』
『そぉねぇ…まず言った通り、淡雪ちゃんのお勉強♡ …感情を覚えさせてあげたいわよねぇ、それにぃ、暇の潰し方♡ 叡雅と生きるなら大切でしょ?』
暇…暇になるのかな。叡雅さんと居て、暇なんて、ある?
「ん、んん」
『それで? 他になにかあるか』
首に柔らかい感触がして、驚いて声が出た。その声に笑ったのか、息がふれてくすぐったい。
それに、叡雅さんの声音が弾んでいるように聞こえて、むずむず、ふわふわする。
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