感情

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難しい。さっきの満たされた様な、ふわふわはなんだろう。嬉しいに似ているけど、違っていて。分からない。 「お庭は好きです。生のお魚は美味しくてどきどきしました。…叡雅さんに触れて頂けると嬉しい、のだと思います」 『くくく、思うとはなんだ。しかし…ふむ。ようやっと知る感情が増えたな』 「…嬉しいです」 『笑むほど?』 …笑ってる?頬に手をやってみるけど、分からない。 『瞬きの間だ。だが確かに微笑んでおった』 額への口付けが擽ったい。 『どれ、おいで』 叡雅さんの膝を示される。近くまで寄って、向かい合って傍に座った。 『遠いな。ここに座ってはくれぬのか?』 「ぇ、…ですが」 『ふふ、おいで』 少し強引に引っ張り上げられた。鼻が肩に当たってしまって、痛い。 暫くして痛みが引いたら、いつの間にか頭を撫でられてることに気がついた。ぽかぽかする。 心地いい。眠たくなかったのに、今は寝てしまいそうだ。…太ってしまう。よろしくない。 「…えいが、さん。寝てしまいます」 『それは大事だな。しかし離すつもりなど毛頭ないゆえ、諦めよ』 「そう、ですね。あきらめます」 『1時間で起こしてやろう。その頃には膨れた腹も多少はな』 「…はい。…あきらめ、ますから、ずっといっしょに、いて…。…ください」 笑って頷く気配にほっとして、促されるままに浅い眠りに落ち行く。 淡い意識の中で低く、心地のいい声が音を刻む。とても優しくて、柔らかい音。心地いい。安堵する。 やっと手に入れた私の、私だけの場所。 なんの価値もない、ただの私で許される。 不思議な感覚。ありえない事のはずなのに、ありえている。捨てられてしまったら…、でも、捨てないと仰った。 他でもない叡雅さんがそう言うのなら、その通り。捨てられない。見放されない。 もっと甘えてもいいとも言っていた。…甘えるって難しい。 でも今はとても甘やかされている…と思う。まるで、村の親子のよう。 親は子供を抱き締めて、子供は絶対の安全地帯にいるかのように身を任せて。寄り添い、頬を赤らめ、気の向くままに。 私が知る親子のかたち。
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