28人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
───あぁ、暖かい。
ずっと欲しかった。ずっと、ずっと。欲しくてたまらなくて、手を伸ばして、その度に咎められ、いつしか諦めた。
それが、今やっと、貰えた。
叡雅さん。私の神様。唯一の御方。
逃がすまいと薄れた意識の中手に力を込めた。行かないで。ひとりにしないで。
微かに抱きしめる力が強くなっただろうか。心地いい。
『───き、淡雪。起きなさい』
意識が覚醒する。何度か腕に包まれたまま瞬きし、微かにあった意識を辿る。
なかなか思い出せない。とても沢山考えたのに。でも…こんなにも、穏やかだ。焦燥感も、痛みも、苦しいのもなくて、ただ心地いい。
『愛おしい子。目が覚めたか?』
瞼に口付けが降る。愛おしい子。愛おしいってなんだろう。難しくて、恐ろしい。
言われるととてもふわふわして、くすぐったい。暖かくて少しだけ苦しい。
いとおしい。愛してるとは、また違うのだろうか。愛してるなら、多少はわかる。見たことがある。
村の親は子を“愛して”いた。時折そうであると口にもしていた。でも、愛おしいってなに?愛してるとは違う?
『愛おしい子、なにゆえ泣きそうな顔をする? 何も恐ろしい事などなかろうに』
優しいお顔。穏やかな声音。
捨てられない。きっと、捨てられない。そう仰ったのだ。大丈夫。捨てないと、愛してくださると仰ったのだ。
それでも、わからない。いつかわかるなんて思えない。心を返すこと。愛すること。わからない。だって、ただ、わがままをして、甘えてばかりいて、迷惑をおかけしている。
『淡雪、大丈夫。今は愛されるだけで良い。ふふ、まだ愛し方が足りなかったか。難しいものだ。愛おしい子、愛し子』
「ぅぅ…申し訳ありません…」
今の状況、普段の生活、何をとっても、どうしたって迷惑をかけているとしか思えない。
頭では、叡雅さんの言う通りに今は甘えて、いつか返せばいいのだと分かってる。それが叡雅さんが望む形なのだと。
最初のコメントを投稿しよう!