28人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
そう思ってもやはり、どこかで駄目だと拒否しようとするから、また、迷惑をかけてしまう。
『迷うのならそれでも良いのだが…、どうか離れては行くな。なにぶん其方の迷う姿も、苦しむ姿も愛らしいと思っておる。決して迷惑などでは無いのだよ。むしろ我を困らせるほどに迷惑をかけてごらん。それでも可愛いものだ』
わからない。迷惑は、迷惑で…困らせてしまう。悪いもので…? …わからない。でも
「わたくしから、叡雅さんの側を離れることはございません。…離れたく、ありません」
『ならば、ここに居れば良い。時など気にせず、永遠に。なに、ここに留まることに飽きたなら、共に外出でもしようか。その頃には随分時代も変わっていることだろう。…あぁ、ようやっと表情が柔らかくなった。安心したか?』
「はい…」
背をさする手が優しい。今こんなにも安心している。また不安に思うことがあるのだろうか。あるんだろうね。また不安になる。そしてその度にすがって、同じ言葉を乞う。煩わしい、こと。
つくづく、迷惑をおかけしてしまう。…もっとかけてもいいと仰ったけれど。かけすぎはいけないと思う。
「難しいですね」
『そうか。…そうだな。難しいものだ。だが、淡雪はより欲に従っても良い。ふふふ、愛おしい者が居て、迷惑をかけられるのは、この上ない幸せなのだ。どうか幸せをおくれ? 愛おしい子』
しあわせ?
「しあわせは、良いことですか?」
『もちろん。誰もが乞い求める。心が満ち足り、暖かく感じる。この上なく幸福な瞬間。…生きとし生けるものそれぞれ、何を幸せと感じるかは異なる。我と淡雪も然り』
「満ち足りる? 暖かい事は、沢山あります…わたくしは幸せですか?」
ぽかぽか、ふわふわ。叡雅さんの近くはいつも暖かい。でも時々苦しい。
『さあ…、どうだろうか。幸せと思えるのなら、幸せなのだろう。幸せが分からないのなら、少しずつ覚えてゆこう。…心細く思う必要などない。自然に従い生きて行ったなら、そのうちに覚えてゆくさ』
「…はい」
肩に顔を寄せて、体の力を抜き切る。動きたくないな。ぼんやりと外に目を向ける。ふと視界に写った叡雅さんの手に触れる。
『ん?』
少しだけ動かされた腕を抱え込んで額を擦り付けた。うれしい。嬉しい。
ふわふわ、ぽかぽか。まるで春の陽気の中にいるようで心地いい。
最初のコメントを投稿しよう!