感情

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そう思ってもやはり、どこかで駄目だと拒否しようとするから、また、迷惑をかけてしまう。 『迷うのならそれでも良いのだが…、どうか離れては行くな。なにぶん其方の迷う姿も、苦しむ姿も愛らしいと思っておる。決して迷惑などでは無いのだよ。むしろ我を困らせるほどに迷惑をかけてごらん。それでも可愛いものだ』 わからない。迷惑は、迷惑で…困らせてしまう。悪いもので…? …わからない。でも 「わたくしから、叡雅さんの側を離れることはございません。…離れたく、ありません」 『ならば、ここに居れば良い。時など気にせず、永遠に。なに、ここに留まることに飽きたなら、共に外出でもしようか。その頃には随分時代も変わっていることだろう。…あぁ、ようやっと表情が柔らかくなった。安心したか?』 「はい…」 背をさする手が優しい。今こんなにも安心している。また不安に思うことがあるのだろうか。あるんだろうね。また不安になる。そしてその度にすがって、同じ言葉を乞う。煩わしい、こと。 つくづく、迷惑をおかけしてしまう。…もっとかけてもいいと仰ったけれど。かけすぎはいけないと思う。 「難しいですね」 『そうか。…そうだな。難しいものだ。だが、淡雪はより欲に従っても良い。ふふふ、愛おしい者が居て、迷惑をかけられるのは、この上ない幸せなのだ。どうか幸せをおくれ? 愛おしい子』 しあわせ? 「しあわせは、良いことですか?」 『もちろん。誰もが乞い求める。心が満ち足り、暖かく感じる。この上なく幸福な瞬間。…生きとし生けるものそれぞれ、何を幸せと感じるかは異なる。我と淡雪も然り』 「満ち足りる? 暖かい事は、沢山あります…わたくしは幸せですか?」 ぽかぽか、ふわふわ。叡雅さんの近くはいつも暖かい。でも時々苦しい。 『さあ…、どうだろうか。幸せと思えるのなら、幸せなのだろう。幸せが分からないのなら、少しずつ覚えてゆこう。…心細く思う必要などない。自然に従い生きて行ったなら、そのうちに覚えてゆくさ』 「…はい」 肩に顔を寄せて、体の力を抜き切る。動きたくないな。ぼんやりと外に目を向ける。ふと視界に写った叡雅さんの手に触れる。 『ん?』 少しだけ動かされた腕を抱え込んで額を擦り付けた。うれしい。嬉しい。 ふわふわ、ぽかぽか。まるで春の陽気の中にいるようで心地いい。
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