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屋敷に戻って、叡雅さんの膝に乗せてもらったまま目の前で満面の笑みを晒す人と見つめ合う。
叡雅さんはあまり傾月さんに興味が無いらしく、私の脚の上にある尾をゆらゆら動かしたり、頭を撫でて髪をいじったりしている。
尾はいつもの事ながら毛並みが極上で、さらさらだからか、くすぐったい。心地いいけれど。
それにしても、何をしたいのだろう。何を話す訳でもなく、何かをする訳でもなく、ただ見てるだけ。
「あの…」
『なぁに? 可愛いわねぇ』
なんか、なんだろうか、むずむず。
そうして、身じろげば。叡雅さんの尾が頬をくすぐって、前にまわった手のひらが柔らかくお腹を叩く。
『妾のことはぁ、気にしなくていいのよぉ? 自然体でいてちょうだいなぁ。叡雅みたく♡』
『淡雪、此方をお向き。』
振り返って叡雅さんの目を見る。金色。きれい。
『良い子。傾月のこと、煩わしければ無いものとして構わぬよ』
『えぇー? 酷いわぁ』
『どうしても気になるなら、我を呼ぶと良い。淡雪の良いようにしてあげよう』
なんだか、叡雅さんのあたりが強いような…。表情は、いつもの様に柔らかいけれど、少しだけ、瞳が冷たい。
「わかりました」
『もぅ! 酷いじゃないのよぉ!』
『ふふ、良かった。遠慮などする必要は無い。いつでもお呼び』
「…はい」
首元に頬を寄せる。深く息を吸った。森の匂い。とても落ち着く。
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