感情

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『んふふ、叡雅の邪魔はしないわぁ。あと、淡雪ちゃんに妾は毒だものねぇ、だからちゃんと抑えるわ。なんだったら“誓約”だって交わしちゃう♡』 せいやく…制約だろうか? それとも、誓約? でも、誓約…だろう。より強固な約束。 『ふむ。ならば、“二尾の狐、傾月よ。今後一切淡雪の害になる事は許さぬ”』 『“この傾月、その縛りを喜んで頂戴いたします” …うふ♡ これで安心ねぇ』 …なにか、凄いことが起こったような? 光の粒が舞って、幻想的だった。声は不思議な響きを持ってて、心地いい。 その中、膝の上に腰掛ける私。場違いだ。 「あの…、叡雅さん、どうか腰を離していただきたく…」 『遊びに行きたいか? ふふ、良いよ。楽しんでおいで』 そういう訳では無いけれど、離してくれるのなら離れよう。 少しもたついたけれど、立ち上がって傾月さんに一礼してから庭に出る。傾月さんはにこやかに手を振ってくださった。 せっかく、叡雅さんに綺麗にしていただいた裾が汚れないように、しかし小走りで庭を通過する。 とにかく、離れたかったのだ。あの場から。 苦しかったわけじゃない。痛かったのでもない。怖くもなかった。むしろ安心していたし、落ち着いて いた。穏やかだった。 たくさんたくさん、配慮してくださったのだろう。気にかけてくださった。 よく足を運ぶ、広場に出た。立ち止まって息を整えれば、小鳥の囀が聞こえる。 広場の中央にそびえる木に巣でもつくったのだろうか? だとしたらあと数週間もすれば雛鳥の鳴き声も聞こえてくるだろう。 「そう言えば。おぼろ?」 呼べばどこからとも無く、舞い降りてくるのだからこの子は不思議だ。耳がいいのか、常に近くにいるのか。 「おぼろは、両親は居るの?」 〈ピュイ〉 「そう…居ないの…私と同じ、だね」 〈ピュィィイ〉 「確かに、森のみんなが家族なら、寂しくはなさそう…。私は…、村にいて寂しいと思ったことは無いけれど。なんと、言うのか…空虚?」 生きる事、生きている事に絶望して、村の親子をただ眺めて、書物を読んで、駆けずり回る子供達の声を聞いた。 親子に声をかければ、表情を強ばらせ逃げられる。きっと、彼らもあとで注意を受けるのだろう。
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