一番初め。

1/5
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ

一番初め。

朝、目が覚める。いの一番にまだ息をしていることに絶望した。  淡々と着替えて、家を出る。持ち物は小さな鞄に小刀。  川岸に座り込んで水が流れるのを見る。少し目を凝らせば小魚が泳いでいた。懸命に生きる姿がとても眩しく見えてすぐに目をそらす。 「神子様ーー!」 「はい」  呼ばれて応える。すぐに老年の男性が近付いた。 「本日もまたご機嫌麗しゅう存じ上げまする」 「前置きはいいから、要件を」 「おお、おお、畏まりました」  おどけた様子で私の機嫌を取る。優しげな顔をして話し出す。 「いよいよ明日は輿入れの日でございますな。この爺、神子様が爺の膝丈程幼くあらせられた頃から待ち遠しく思っておりました。それに際しまして、御衣装などの最終調整をしたいと村の女共が申しておりましての、是非、付き合って頂けぬかと参った所存」 「そう。好きになさい」  ヨボヨボの、血管が浮きでた手で連れていかれる。横目で森の木々を見遣り、せせらぎを聞いた。明日を過ぎればもう見聞きすることは叶わない。  小屋の中できゃいきゃいとはしゃぐ女性たちによって衣装を着せられ、化粧を施される。人形とでも思っているのだろう。  満足して解放される頃にはとっくに昼が過ぎていた。食事をする事は叶わない。何せ輿入れ前なのだから。不浄のものは入れられない。  森の開けた場所に座り込んで、道中で調達した手のひら大の木を彫る。無感動に手を動かした。出来上がったのは手のひらに乗る程度の兎。  精巧に作ったそれは今にも動き出しそうだった。〝だから〟、息を吹きかける。みるみるうちに木彫りの兎は動き出した。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!