第一章 鋼持つ勇者

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~~Another view~~  授業終わりの賑やかな喧騒の中、教室の隅の方の目立たない席で私は文庫本の頁をめくる。  内容は頭に入ってこないけど、それで構わない。これはただの装置。  そう、私、輝咲 碧の世界と、それ以外の世界を隔てる為の舞台装置なのだから。  授業合間の少しの休憩時間、特に目立たず本を読んでいるクラスメイトに用事もなく話しかける人なんてまずいない。  まるで大昔のテレビみたいに灰色で、画面を隔てて眺めている様に現実感の無い風景。  それが私の世界で、この学校に来てから一年間の、私の日常。  人から見ればおかしいかも知れないけど、これは私が自ら望んで作り上げた日常。  真っ暗で、真っ黒で、凍えそうだった中学生の頃の日々を繰り返さない為に。  仲間になろうとしなければ、仲間外れにされない。  意見を言わなければ、否定されない。  触れようとしなければ、拒絶されない。  そう、人間関係なんて、自ら求めなければ傷付く事はない。  とくに私みたいに引っ込み思案で、不器用で、なんの取り柄もない人間が〝みんなと同じ〟だなんて烏滸がましい。  だから私は、私とそれ以外の世界を隔てる壁を創り、自身の心を守る。  次の授業が始まるまで5分程、ちらりと教室の掛け時計でそれを確認した時でした。  なんとなく、教室の空気が変わる。  私は、その空気を知っています。  直前の授業にはいなかった男子生徒が、教室に入ってきました。  紅月 竜斗さん。部活動で活躍されている、校内の有名人なんだそうです。  彼は隣の席の友人と何度か軽口を交わした後、疲れ果てた様に机に突っ伏してしまいます。  明るい性格にみんなが羨む才能、それでいて人を惹き付けるカリスマの様なモノも持っているのでしょうか。  去年から同じクラスですが、何かある度に彼はクラスの中心にいた様に思います。  それが羨ましいなんて思いません。  ですが、私みたいな日陰者でも、朝の挨拶をしたら他のみんなにするのと同じように返してくれるのかな。  そんな事を考えている内に、顔を上げ自然と彼を見つめてしまっている自分に気付き、咄嗟に視線を手元の小説に落とします。  それから一瞬遅れて、彼が上体を起こしこちらにじっと視線を向けて来ました。  見つめてしまっていた事がばれたのでしょうか? 「なぁ獅己、あの本読んでる黒髪の……えっと」 「あんな子、ウチのクラスに居たっけ?」  会話の端々が辛うじて聞こえてきますが、ここで反応しては中学の頃と同じです。  私はただ、自分を守る為に何も聞こえていない風を装って、文庫本の頁をまた一枚めくる。  願わくば、これで彼の興味が尽きて、今までと同じ日々が帰ってきます様に。 ~~Another view~~ END
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