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プロローグ
気がついたらそこは、知らない部屋でした。
「?」
いつもは腰が痛くて一回、横にゴロンと向いてから気合いをいれないと動けないこともある重たい身体が、今朝はサクッと動く。
「軽っ」
思わず手元を見ると、ここ何年も見たことのないハリのあるピチピチの肌。
「へ?」
ちょっと嬉しいけど、どーゆーことぉ?!
「げっ!」
ショートボブの筈だった私の髪が見たこともないぐらいに……伸びている!
しかも、良く見ると毛先はパッサパサでかなり痛んでるようだ。
何で伸びてるの?何かの呪い??
まぁ、それにしても。
「ここはどこ?」
私は呆然としたまま、呟いた。
室内を見回すと、そこにはどこかのホテルのスイートルームのような高級感のある家具がどーんと置かれていた。
室内の装飾は決して趣味が良いとは言いがたい、ゴテゴテしたショッキングピンクで統一されており、正直居心地は悪い。
「何、この趣味悪い部屋」
私は思わず呟いた。
蛍光ピンクのリボンが視界にこれでもかと飛び込んでくるので、目がチカチカする。
ホテルの部屋のように、テレビなど電子機器も見当たらない。
とりあえず、やたらとデカい天蓋付のベッドから私は滑り降りた。
床は、大理石か何かのようだ。足の裏がひんやりと冷たい。
私はペタペタと歩いて、これまた巨大なクローゼットの隣に作りつけられている姿見を発見した。
「……!?」
鏡の向こうで、仰天したように見たことのない、大柄なガッシリした体格の娘が大きな眼を見開いていた。
「やだぁ、これ私?」
これまた趣味の悪いピンクサテンのツルツルした寝着に身を包んでいて、また似合わないこと甚だしい。
ハッキリ言ってかなり、イタいレベルだ。
「どーゆーことなんだろう」
私はペタン、と姿見の前に座り込んだ。
鏡にうつる娘の顔は、赤らんで困惑しきった顔をしていた。
ペチン、と頬を叩く。
鏡の向こうの娘も同じ動作をする。
私は顔をしかめて変顔を作った。
鏡にうつる娘も変顔をした。
うえっ、ヒドい顔……。
ドングリマナコだし、鼻ぺっちゃだわ、眉は濃いのに手入れもされていなくて。頬は真っ赤で……そうね、この娘、お猿さんみたいだわ。
思わず、アイアイのポーズをとった。
うん。
似合い過ぎる……。
はっ、こんなことをしてる場合じゃなかったわ。
我にかえった私は今の状況を考えることにした。
っていうか、確認するしかないわ。
よく、わからないけど私、このお猿さん娘になっちゃったみたいね。
年はウチのJKの娘と同じぐらいかなぁ?
まさかと思うけど、これってウチの娘が読み漁ってたライトノベルの異世界転生、ってやつ?
最近そんな話、読んだような?
娘のはまってる乙女ゲームを見せられて、課金チェックでさらっとのぞいたことはあったっけ。
人のスマホ勝手に使って応援やら、推しがどうやらといって私に通知が山盛りきてたけど、内容は知らないんだよね……。
これって、転生とか転移になるの?
いや、世代的には階段とかで二人でゴロゴロ転がって入れ替わるようなものの方が馴染みがあるんだけど……。
だって、私。
澤井 律子は昭和生まれの40代、三人の子持ちのパート主婦なんだもん。
何でこんなことになったんだろう。
思い出せ!思い出すのよ!律子。
「あ……」
そうそう、そういえば近所のスーパー特売の時間を知らせるアナウンスで、タイムセールの豚コマパック買いに精肉コーナーに走ったところまでは覚えがあるわ。
それで……、精肉コーナーの手前の鮮魚コーナーの床の氷が溶けてツルツルに滑ってたの。
いつも、危ないと思ってたのよ。お掃除タイムとか以外にも掃除しないと、ちっちゃい子が転んだりするんじゃないかって、走り回る子ども達を見て、ヒヤヒヤしてたんだっけ。
そうそう。
それで子どもじゃなくて、運動不足気味の私が走って、そこで見事に。
転んだのよね。
かなり派手にスッ転んで、頭を打ったような気がするわ。
目から火花が散って……そこからの記憶がないじゃないのよー!
いやぁ、何それ。
そんな死に方ありぃ?
あそこの奥さん、スーパーで特売走って転んで死んだ(笑)とかPTA的なLINEで駆けめぐっちゃうじゃん。
自立してきたとはいえ、思春期の子どもたちへの影響も心配だわ。これを気にグレたり、不登校になったりしたらどうするのよ。
とりあえず、イマドキ転生ルール?はわからないけど、私の愛読していた昭和の少女マンガ的な感覚だとこういう場合、
① 夢オチ。
② 意識だけ転移した生き霊的なモノ。
③ 昔のどこぞの時代へタイムスリップ。
とりあえず、①の夢オチかもしれないわ。
明日は、早出の出勤だし、夢ならとっとと醒めてくれないかしらねぇ……。
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