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「コスモスぅ!」
あれは確か三歳の時だ。
近所の空き地に咲いた大好きな花の群れに駆け込んだ。
春の桜より色濃い本当のピンク。清々しい白。どこか毒を含んだ艶かしい赤紫。花を支える黄緑色の茎はかぼそく見えるが、多少の衝撃は受け止めて折れないしなやかさを備えている。
「一人で行っちゃダメ」
ママは歌うような日本語で告げるとコスモスと同じピンクのワンピースを新しく着せたばかりの私を抱き上げた。
ふわりとラベンダーの香りに包まれる。ママのいつも着けていた香水の匂いだ。
「重くなったねえ」
ママの顔は見えなかったが、語る声には温かな笑いを含んだ響きがあった。
「コスモス、いっぱい咲いてる」
私は抱っこされたまま小さな手で指し示す。
家二軒程のスペースの空き地は七割方ピンクで残りは白と赤紫のコスモス畑だ。
「メキシコのママのおうちの近くにはもっといっぱい咲いてた」
鼻に届くラベンダーの匂いがきつくなり、抱き締める腕の力がより強く熱くなった。
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