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アレを家に入れた晩、妻は切れ長の美しい目をさらに尖らせて私とアレとを一瞥してから、
「どうして相談して下さらなかったんですか」
ただ一言、吐き捨てるようにそう呟いた。
いつもならば、私のやることには表だった反論はしない女だ。
しかし、この問題についてはさすがに口出しをしたくなった様だった。
「何故お前に一々指図されねばならないのだ」
言わずもがなの口答え。妻は更に表情を固くする。
「コレが居れば、もっと過ごしやすくなるだろう」
「……わたくしの申し上げた事はお聞きいれ頂けなかったんですね」
「……」
私はアレを見た。
アレは、ただしんと押し黙ったきり部屋の隅で私たちの出方をうかがっているだけだった。
「わたくし、いつも貴方のためを思いまして、何時も貴方がお家でも快適に過ごされるように気を遣っておりましたのに」
「しかし、お前のソレは何時もうっとうしいくらいあつ苦しいんだ、それに無駄も多い、空気も乾きがちになる、俺がいつも部屋で苦しく思っているのを知ってたんだろう?」
「……一番善かれと思ったからです」
「それが暑苦しいのだ」
「……酷い」
妻は目を伏せた。
長く密集したまつ毛がかなしみに震えていた。
私は咳払いをして、彼女に向き直る。妻を責めるつもりは毛頭ない。
「済まなかった」
「本当に、」
妻が目を伏せたまま聞いてくる。
「ソレが貴方を暖めてくれるのだとお考えなのですか」
「俺はコイツを信じている」
「ソレだけでお過ごしになられるのですね」
「もとより、そのつもりだ」
「分りました」
妻はようやく面を上げた。
「私はもう何も申しません、どうぞお気の済むまでソレでお過ごし下さいませ」
蜜月がはじまった。
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