雨の国の王様

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”バーべキュー男”。 我らがラーメン同好会の勧誘チラシに書いてあった、先輩のニックネームだ。 たいして仲良かったわけじゃないけど、知り合いだった高校からの同級生に連れていかれたその同好会の新入生歓迎会で、私、麻生あゆみは第一の衝撃を受ける。 「は、はじめまして、バーべ・キュー男(お)こと北川景です。3年です。好きなラーメン屋は風一堂です。」 緊張しているのが分かる上ずった声、考えながら紡がれるちょっぴり屁っ放り腰な言葉。170cmもいかなそうな身長に、灰色のセーター、そしていたって普通の黒メガネ。 バーべ・キュー男どころか、バーベキューという言葉すら先輩からは想像できなかった。チラシで見たニックネームから勝手に想像してた人物とは全くもって程遠い人だ。 ”あゆみん”というありきたりなニックネームで呼ばれる私にとっては少し羨ましいギャップのように思えた。 名前は人に自分は何者であるのかを示す灯台みたいなもので、ニックネームはその灯台をもっとわかりやすく、印象付けるものであるはずだ。代わり映えのないニックネームほど記憶の海に沈んでゆき、強烈なニックネームほどその海から浮かび上がる。 だからこそ、羨ましく思ったのだ。先輩自身が言い慣れていないであろうニックネームを、先輩とのギャップとともに。
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