その美しさに手をのばす

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               * 『夢なのかな、なんて。まばたきをする間際に思う。次に目を開いたら、あなたは消えてるんじゃないかって。恐れが、まぶたをちいさく震わせる。でも聞こえた、あなたの息遣い。よかった、あなたはここにいるね。まぶたを開いた瞬間に、あなたの熱に飛び込んだ。』  髪の毛の色を塗り切ったところで、ふうっと息をついた。画面右下の時刻表示をみると、二十一時三十六分。タッチペンを置き、座椅子にもたれてSNSを開いた。画面をスクロールしていくと、片山がいつものように短い文章を投稿していた。あれ、何かいつもと違う――? 小さなひっかかりのようなものを覚えたけれど、文章が儚く美しいことには変わりがない。いいねのハートをタップする。しかしタップした瞬間、投稿が消えてしまった。「えっ」と目を見開いたその瞬間に着信音が鳴ったから、「うわっ」と大袈裟に驚いてしまう。画面に表示された名前は『片山愛華』。すぐさま通話ボタンをタップする。 『もしもし沢崎? 今大丈夫?』  少し緊張したような声だった。「大丈夫だよ」と答えると、『そっかよかった』とほっとしたような声が返ってくる。電話なんて珍しいなと思いながら、「どうしたの?」と訊いた。 『えっ、いや別に、特に用事ってわけじゃないんだけど……』  だんだんと小さくなる語尾からは、恥じらいと照れくささが感じ取れた。あぁそっか、俺と話したいと思ってくれたんだ。そう気付いた途端に、口元が緩んだ。 「嬉しい。俺も、話したいなって思ってた」  片山からは返事がない。どうしょうかな、と少し考えてから、アプリの投稿の話を振った。 「あなたの熱に飛び込んだって文章、綺麗だと思ったんだけど消しちゃったの?」  訊いてみると、『えっ、見たの?』と裏返った声が返ってくる。 『うそ、すぐに消したのにっ!』 「あ、やっぱり消しちゃったんだ。もったいない」 『いやだって……、我に返った瞬間、やばいなって思って……』  しどろもどろの声を聞きながら、もしかして、と楓は思う。 「あの文章、俺のこと?」  言いながら、さすがに思い上がりかなと恥ずかしくなった。スマホから息を呑む音が聞こえた。数秒の沈黙があってから、小さく唸る声が聞こえた。 『……ていうか、浮かれた文章っていうか、……いやまぁきっとそうなんだけど』 「そっか、嬉しいな」  心から思ったからそう言ったのだけれど、『またそんな乙女ゲーみたいな……』と言ったっきり片山は絶句してしまった。俺は消えたりしないよ、なんて続けたかったけれど、追い打ちをかけてしまうことになるだろうからやめた。電話の向こう、きっと片山は真っ赤な顔を手で押さえて俯いている。何の話を振ろうかと考えていたら、『あぁっ、そうだ!』と片山が高い声を出した。
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