序章 悪魔憑きの夜

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「ですが、院長! 一人や二人じゃありません! これでもう五人目(・・・)なんですのよ!」 「それも部外者が立ち入ることのできないこの修道院の内部でなど……この中に修道に勤しむふりをした魔女が隠れているとしか思えません!」 「それは……」  しかし、語気を荒げて反論する彼女たちの声に押され、グランシアは言い淀んでしまう。 「と、とにかく! まずは天に召されたエルマーナ・アビガイルの魂を安んじめることと、聖なる礼拝所をもとの清らかな場所に戻すことが先です! さあ、皆さん、手分けをして用意をなさい」  それでも、自分の不利を誤魔化すかのようにグランシアはそう声を張り上げると、ただ騒ぐだけの修道女たちにやるべき仕事をするよう叱咤する。 「最初にアビガイルを見つけたのは……メデイア、今回も(・・・)あなたなの?」  そして、再び祭壇の方へ眼を向けると、すでに冷たくなり始めたアビガイルを床に寝かし、その手を胸の前で組ませるメデイアを見て尋ねた。 「はい……」  メデイアは伏目がちな顔をそれでもグランシア院長の方へ向けると、力のない声で短くそう答える 「わかりました。あなたには事情を聞きたいんで、その服を着替えたら院長室へ来なさい……さあ、何をぐずぐずしているの? 神に仕えし者がそんなことでどうするの!」  メデイアの返事を聞くと、続けてそう告げたグランシアは、いまだ呆然と佇んでいる数人の修道女たちに改めて発破をかける。 「………………」  だが、背後の修道女たちの方を振り向きざま、自分を一瞥したグランシアの眼に、疑心とも敵愾心とも思えるような、何か攻撃的な色の帯びていたことをメデイアは見過ごさなかった――。
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