Ⅳ 魔女の真実

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Ⅳ 魔女の真実

「――あのお……さすがにこれはマズイような……」  時折、流れる雲の隙間から朧げな月明かりの零れる夜空の下、乗ってきた馬の鞍の上に立ち、高い城壁のような石の壁へ手をかけているハーソンに、なんだか落ち着かない様子のアウグストが周囲を気にしながらご注進申し上げる。 「直に彼女の部屋を調べさせてくれと、堂々と正門から入ってゆくわけにもいかんだろう? 預言皇庁直々の任務遂行のためだ。神も許してくれるだろう……フンっ!」  だが、ハーソンはまったく気にする様子もなく、そう言って両の脚に力を込めると、ひらりとマントを翻していとも簡単に壁の屋根の上へ跳び乗ってしまう。幾度となく攻城戦を経験してきた彼にしてみれば、こんな壁を乗り越えることなど造作もないことだ。  あの後、一旦は修道院を後にしたハーソンとアウグストであったが、少し離れた場所で夜が更けるのを待ち、再び修道院へと戻って来ていた。  ただし、今度は声をかけて正門から入ってゆくのではなく、こっそり壁を乗り越えての不法侵入である。理由は、真犯人を含む修道女達に気づかれることなく、密かにメデイアの部屋を自らの手で調べるためだ。 「それじゃ、アウグスト、馬と見張りを頼む!」  ハーソンは簡単にそう告げると、心配そうな顔のアウグストを他所に颯爽と壁の向こうへ消えて行ってしまう。 「ああっ! ……もう、言い出したら聞かない人なんだから……」  品行方正な常識人に見えて、意外とアウトローな所もある困った上司に、アウグストは胃の痛くなる思いで独りボヤキを口にした――。
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