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その時。聖がごほごほと咳き込んだ。
「俺、帰るわ」
「大丈夫、ひー……聖君?」
ひーちゃん、と言いかけて慌てて訂正する。そう言えば彼はさっきからずっと鼻をグズグズいわせている。
「何で俺の名前知ってんの?」
「ギクッ!……さっきそっちの彼が呼んでたから。それより、風邪引いたの?大丈夫?」
「あんま大丈夫くないから、帰って寝る」
不謹慎だが、勇貴と2人きりになれる……
「悪いな、聖。親父が移したんだな」
「気にすんな。あんた、ぶつかって悪かったな。じゃ」
背を向けて歩き出しながら、聖はひらひらと手を振った。和美は鞄から薄荷飴を取り出すと、聖に駆け寄って手のひらに握らせた。
「お大事にね」
「サンキュ」
聖は優しく目を細めた。
(ひーちゃん可愛い)
和美は、こちらこそサンキュー!と思いつつ、聖の背中を見送った。
「キミって優しいんだね」
勇貴の甘い声が背中越しに聞こえた。
「そんなことないわよ。聖君が風邪引くなんて珍しいから心配になっただけ」
「やっぱ聖のこと知ってんの?」
「ギクッ!」
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