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「ま、いいか。確かに鬼の撹乱だな……昨日俺んちに泊まりに来てたんだけど、親父が風邪引いてるくせに夜中に俺らの部屋に忍び込んで来てさ……参ったよ」
勇貴はハハハと笑っているが、和美はあらぬ想像をしてしまった。
(夜中に何しに忍び込んだんだ……)
ごくっと生唾を飲み込む。見た目は乙女だが、中身は好奇心旺盛なオカマちゃん故に、身体の中心が疼いた。
「聖のことは心配いらないから、どこ行く?」
勇貴に問われて、和美は我に帰った。行きたい所なんてたくさんありすぎて、今日1日では回りきれない。
◇◆◇◆
2人きりになりたかったので、カラオケに行き、いつもの川原に来ていた。
「勇貴さん、歌がお上手なのね」
「和美ちゃんもね」
勇貴の笑顔。なんて素敵なんだろう、夢ならこのまま覚めないで欲しい……と和美は思った。
「この川原、よく来るんだ。悲しいこと全部、この流れが一緒に持ってってくれる気がして」
和美は水面を見つめながら呟いた。
「悲しいことって?」
「あなたを好きな気持ち」
ざわざわと木々が音を立てた。
(決して叶わない、あなたを好きな気持ち……)
和美は切なくなった。
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