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ーーーー風が立つ。
私の翼から放たれた風は草原を波立たせた。
巨大な蝙蝠の羽に似た翼で、地面に空気を押さえつけるように着陸する。風圧は円形状に草を倒し、鉤爪の生えた脚がその真ん中の大地を踏み締める。
人間の世界に来るのは久しぶりだ。
私の背中から1人の青年がひらりと舞い降りた。寒冷地用の耳当て付きの帽子を取ると、ひと房の三つ編みに纏められた白い髪はオパールのような虹色につやめき、エルフの特徴である尖った耳が露わになる。秀麗な顔の中でアーモンド型のエメラルドのような緑色の眼が、白い髪と肌の中で唯一色を持っていた。
黒いベストとズボンにブーツといった乗馬をする時のような格好は、活動的ながらも気品が損なわれることなく貴公子然としている。
青年ーソラスは手に持っていたマントを枯葉色の鱗に覆われた私の巨躯に被せた。
竜の姿をした私の体はマントの中でどんどん縮み、鱗は溶けるように滑らかな皮膚へと変わっていく。産毛は頭頂部に集まり、茶色い短髪になったところで留まった。
『さて、行こうか』
人の姿になった私は、シャツに革のベスト、ズボン、ブーツを纏うとマントを翻し、金の燐光が残る眼でソラスに笑いかけた。
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