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色づいた街路樹を脇に歩き、踏切を越え、坂道をふたつのぼる。そうして未菜は、大きなグラウンドがある公園に到着した。
未菜はまっすぐグラウンドへと歩いた。夕焼けに照らされたサッカーゴールの前に、人影を見つける。十月末の半袖姿。
未菜はすっと息を吸い込み、明るく声をかけた。
「奥山くん」
『隆之介くん』と呼びそうになったのを、こらえた。
奥山隆之介は未菜に気づくと、いやそうに顔をしかめた。
「……なに」
「えっとね」
未菜は紙袋を背に隠して、のんびりと聞いた。
「今日のホームルーム、なんで怒ったのかなって」
「どうもしねえよ」
未菜の言葉は、サッカーボールを蹴る音にかき消された。ボールはゴールネットの中央を歪ませて、地面に落ちる。弾む。
「読み間違いをからかわれた。それだけだ」
サッカーボールがゴールラインを越える。そして隆之介とは別の、運動靴に当たった。
「……知ってる子?」
スポーツメーカーの運動靴を履いている男の子は、面識がない未菜を、遠巻きに見ていた。彼は手袋をはめていて、別のサッカーボールを持っている。
「クラスの女子」
隆之介はそう言ったきり、右足でリフティングをはじめた。
疎外感が、未菜の口を動かした。
「……私もう行くから。奥山くん、またね」
「うん。また今度な」
未菜は隆之介にも、知らない男の子にも手を振った。
手を振り返してくれたのは、知らない男の子だけだった。
グラウンドを出たところで、未菜は振り返った。隆之介ははつらつとした笑顔で、知らない子と喋っている。
……隆之介くん。前はこの時間はひとりか、蓮司くんと練習していたのに。
……こうなるなら、友達とハロウィングッズを買いに行けば良かった。失敗だ。
「失敗」
未菜はふと、手持ちの紙袋を見つめた。飴色のリンゴが頭に浮かぶ。
タルトタタンは、アップルパイの失敗から生まれたケーキ。
諦めなければ、結果が変わるかもしれない。
思い直した未菜は、隆之介の練習が終わるのを待つことにした。グラウンドの裏側にある東屋まで歩き、ベンチに腰をおろした。
じっとしていると身体が冷えてきた。未菜はかじかんだ指先に息を吹きかけながら、ちらちらとグラウンドのほうを見た。大きな木が邪魔で練習風景は見えず、ボールを蹴る音だけが響いてくる。
そうしていると、東屋の影から、声がかかった。
「なにやってるの。井口さん」
「………」
未菜はぼんやりと彼の細顎を見つめた。中学校の制服より着古したジャージのほうが、親しみが沸いた。
「蓮司くん」
「うわ。懐かしい呼び方を」
「……ごめん。谷元くんって呼ばなきゃ、駄目だよね」
「まあ、好きに呼べば」
谷元蓮司は東屋に入った。脇に持っていたサッカーボールを、未菜の隣に置く。
そしてサッカーボールを挟む形で、蓮司は未菜の隣に座った。
「本当は向かいに座りたいけど。……向かいだと、隆之介たちに気づかれそうだから」
「……蓮司くん」
未菜は蓮司の眼鏡の奥を、うかがった。
「蓮司くんも、サッカーの練習に来たんだよね?」
「そうだけど。井口さんはなにしに公園に来たの」
未菜は身を縮ませた。
「ここ、井口さんのマンションから遠いよね?」
「……うん。隆之介くんの様子を見に来たの。ホームルームで怒っていたの、気になったから」
未菜はクラフト紙で作られた紙袋から、リーフパイを三枚、取り出した。
「これ差し入れ。食べる?」
リーフパイは一枚だけ、端が砕けていた。
「隆之介に持ってきたんだろ」
「一枚は蓮司くんの分だよ」
未菜は東屋の床に、声を落とした。
「……食べてほしいな」
蓮司は、端が砕けたリーフパイを抜き取った。
未菜は蓮司と並んで、リーフパイを食べはじめた。
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