15人が本棚に入れています
本棚に追加
蓮司は顔をあげたが、背後の夕日の光が邪魔で、表情がよく見えなかった。
「……ひいてもいいよ」
「そんなこと」
砂利を踏んで、蓮司に近づく。
「私、女の子だからって、ヒーロー番組は見せてもらえなくなった。年長組から」
ジーンズパンツに包まれた膝を折り、蓮司の顔を覗きこむ。
「あと女の子と男の子でやたらわけられるの、好きじゃない。隣にいるだけで、カップルってはやしたてられるのも……私はもっと、男の子たちとも遊びたかったのに」
うまく言えないけど。未菜はそう前置きした。
「……私だって少数者なときがある。あれこれ言われたくないって気持ちなら、わかるよ」
「………」
蓮司は黙って、未菜と顔を合わせた。
そして近くにサッカーボールが転がってくるなり、蓮司は慌てて背筋を伸ばし、気配がするほうを見た。
「蓮司みっけ」
隆之介がサッカーボールを追って、東屋にやって来た。未菜には目もくれず、隆之介の肩を掴む。
「いたんなら早くグラウンド来いよ。時間がもったいない!」
「いや、あの、井口さんがここにいたから……」
「ああ」
隆之介はまたいやそうな顔で、未菜を見た。声から陽気さがなくなる。
「まだ帰ってなかったのかよ。井口」
未菜は口をへの字に曲げた。
「……なにさ。偉そうに」
「怒ってんのか」
「ちょっと」
「だってお前、練習の邪魔だし」
隆之介はぽんぽんと言葉を投げた。
「邪魔しないもん」
「いるだけで邪魔」
「……隆之介くんが心配で来たのに、ひどくない? ホームルームで怒鳴って、先生に呼び出されたの、どこの誰」
「あー」
隆之介は地面を蹴った。
「思い出させんなよ。やっぱり邪魔」
「……わかった。帰る」
「おう。気をつけて帰れよ」
未菜はリーフパイが残った紙袋を抱えると、隆之介から顔をそむけた。
「ま、待って」蓮司が、ふたりの間に割って入った。
「喧嘩しないで。もう、未菜ちゃんも知っているから。……『正直、こういうの無理だよな』って男子の言葉に、隆之介が怒ったこと」
具体的な言葉は、はじめて聞いた。
「あと『無理だ』って言った子を……俺がちょっと好きだったことも!」
「え?」
意外な言葉に、未菜はまばたきをした。
「それ、聞いてない。初耳だよ」
「あ」蓮司は口元を押さえた。
隆之介も「初耳」とこぼした。ぐっと蓮司に詰め寄る。
「蓮司、それどういうことだよ!」
蓮司はふたりの反応に固まり、しばらく押し黙った。やがてサッカーボールを抱えて、グラウンドに駆けだした。
「逃げた」
「逃がしてあげようよ」
未菜はおそるおそる、隆之介の腕を引いた。
「練習が終わるの、待ってていいよね?」
「……ひとりで話を聞く自信ない。頼むわ」
未菜がさらに詳しく蓮司の話を聞いたのは、サッカー練習のあと。
マンションまで送られる間、隆之介と一緒に話を聞いた。
最初のコメントを投稿しよう!