リーフパイ

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 蓮司は顔をあげたが、背後の夕日の光が邪魔で、表情がよく見えなかった。 「……ひいてもいいよ」 「そんなこと」  砂利を踏んで、蓮司に近づく。 「私、女の子だからって、ヒーロー番組は見せてもらえなくなった。年長組から」  ジーンズパンツに包まれた膝を折り、蓮司の顔を覗きこむ。 「あと女の子と男の子でやたらわけられるの、好きじゃない。隣にいるだけで、カップルってはやしたてられるのも……私はもっと、男の子たちとも遊びたかったのに」  うまく言えないけど。未菜はそう前置きした。 「……私だって少数者なときがある。あれこれ言われたくないって気持ちなら、わかるよ」 「………」  蓮司は黙って、未菜と顔を合わせた。  そして近くにサッカーボールが転がってくるなり、蓮司は慌てて背筋を伸ばし、気配がするほうを見た。 「蓮司みっけ」  隆之介がサッカーボールを追って、東屋にやって来た。未菜には目もくれず、隆之介の肩を掴む。 「いたんなら早くグラウンド来いよ。時間がもったいない!」 「いや、あの、井口さんがここにいたから……」 「ああ」  隆之介はまたいやそうな顔で、未菜を見た。声から陽気さがなくなる。 「まだ帰ってなかったのかよ。井口」  未菜は口をへの字に曲げた。 「……なにさ。偉そうに」 「怒ってんのか」 「ちょっと」 「だってお前、練習の邪魔だし」  隆之介はぽんぽんと言葉を投げた。 「邪魔しないもん」 「いるだけで邪魔」 「……隆之介くんが心配で来たのに、ひどくない? ホームルームで怒鳴って、先生に呼び出されたの、どこの誰」 「あー」  隆之介は地面を蹴った。 「思い出させんなよ。やっぱり邪魔」 「……わかった。帰る」 「おう。気をつけて帰れよ」  未菜はリーフパイが残った紙袋を抱えると、隆之介から顔をそむけた。 「ま、待って」蓮司が、ふたりの間に割って入った。 「喧嘩しないで。もう、未菜ちゃんも知っているから。……『正直、こういうの無理だよな』って男子の言葉に、隆之介が怒ったこと」  具体的な言葉は、はじめて聞いた。 「あと『無理だ』って言った子を……俺がちょっと好きだったことも!」 「え?」  意外な言葉に、未菜はまばたきをした。 「それ、聞いてない。初耳だよ」 「あ」蓮司は口元を押さえた。  隆之介も「初耳」とこぼした。ぐっと蓮司に詰め寄る。 「蓮司、それどういうことだよ!」  蓮司はふたりの反応に固まり、しばらく押し黙った。やがてサッカーボールを抱えて、グラウンドに駆けだした。 「逃げた」 「逃がしてあげようよ」  未菜はおそるおそる、隆之介の腕を引いた。 「練習が終わるの、待ってていいよね?」 「……ひとりで話を聞く自信ない。頼むわ」  未菜がさらに詳しく蓮司の話を聞いたのは、サッカー練習のあと。  マンションまで送られる間、隆之介と一緒に話を聞いた。
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