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それで、なんでしたかしら。
ああ、そう。アッシュを王都に連れ帰るというお申し出でしたわね。
お断りさせていただきます。
伯爵家の後継だなんて、ホーソーンさまがご結婚されてお子さまに継がせればいいお話じゃないですか。
なにもわざわざ、亡くなった弟の子を探し出してまで……いえ。
いいえ。
お断りします。教育はこちらの町でも十分です。
お金?
姉夫婦が遺した信託財産はアッシュが成人してから使えるようにしてあります。
男爵家には領地もありませんけれど、借金もないのです。
これだけは胸を張れますわ。
父からの仕送りはアッシュの為に手をつけずにおりますし、日々の暮らしは針子としての私の収入で賄っています。
……お義兄さまはここでの生活に、姉とアッシュとの暮らしにそれは満足してらっしゃいました。
ここでなら自分らしく生きていけると――元の場所には戻ることはない、そう常々。
家族三人で、ずっとこの町に住むと笑っておりました。
亡き方のご意思を、尊重なさいますわよね。
まあ、嘘?
私がどうして……そうですわね。
お義兄さまの持ち物をご覧になりますか。それから、お花を供えにまいりませんこと?
これがその日記です。ええ、どうぞ。
……あら、お帰りですか。
何のおもてなしもできませんで失礼いたしましたわ。
ローズマリー、お見送りを。
お義兄さまの日記はお持ちになって構いません。
時期が来ましたらアッシュにお返しになってくださいませね。
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