甥と私と、それから彼と

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甥と私と、それから彼と

 大好きなお姉さま、お義兄さま。  秋も深まりだいぶ寒くなってきました。  私たちはローズマリーの特製野菜スープのおかげか、風邪もひかず元気です。  お姉さまたちが天国にお引越しされてしまってから、早いものでもうすぐ一年ですわね。  アッシュは先週三歳になりました。  育ての親の私が言うのも何なのですが、とてもいい子に育っていますのよ。  お義兄さま譲りのプラチナブロンドにお姉さまそっくりの藍色の瞳のアッシュを見ていると、まるでお二人と今も共にいるようです。  相変わらず外遊びが大好きですが、最近は家のお手伝いにも興味があるらしいの。  台所に行ってはローズマリーの手元を覗き込んで野菜を洗ったり、お鍋をかき回したりしてくれます。  ええ、もちろん、ご褒美のお味見が目的なのです。可愛らしいでしょう?  それにちゃんと助かっていますのよ。  チコリやレタスについた虫も怖がらずに綺麗に洗ってくれますし。  ローズマリーも、お嬢さまたちの小さい頃とは違いますね、なんて昔と比べては楽しそうにしていますわ。  だって、ねえ、やっぱり虫は苦手なんですもの。  町の小さい子たちの間では、今も騎士さまごっこが流行っています。  最近ではアッシュまで「姉さまはボクが守るからね!」なんてことをよく言うのですよ。  ……本当は、お姉さま(ははおや)に言いたいでしょうに。  小さな手に剣に見立てた木の棒を持ち、すっと真っ直ぐ背を伸ばして真摯に誓うその姿を見るにつけ、胸がきゅうっとしてアッシュをぎゅうっと抱きしめてしまうのです。  本当に、立派な、小さい騎士さま。  お二人が馬車の事故で儚くなってしまったことは今でも信じたくない悪夢ですが、アッシュが私の手元に遺ってくれたことは、きっと神様の計らいだったのでしょう。  ローズマリーの助けもありますし、私の針子の仕事も順調で食べるには困りません。  このままこの町で、アッシュが大きくなるまでずっと暮らしていけたらと――  そう、思っていましたのに。
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