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「そう言ってもらえて助かるよ。他の連中は今回のこの案件、少しも乗り気でなかったからね。遠いだの、胡散臭いだのなんだのって。そんな奴を連れていくぐらいなら、ぼくは一人で行くつもりだった」
青空と山、黄金色の水田。景色は変わらない。
「遠くにある聞いたことない知らない町ってなんかわくわくしますね」
「よくわかっている。さすがはぼくの後輩だ」
「えへへ」
車内にアナウンスが入ると、わずかばかりに慌ただしくなりはじめた。頭上の荷物棚から荷物を下ろす人や、上着に袖を通す人などが座席から立ち上がる。
「もうすぐ到着ですね」
弁当の隅のよせたおかずをひとつずつ頬張っていく。
「きみ、その食べ方好きだね」
文庫本を上着の内ポケットにしまった草ケ部は、好物はあとに取っておくという後輩の食べ方を眺めながら、ジャケットの襟を正した。
「最後のひとくちまで楽しいです」
からあげ、色付きウインナー、たまごやき。彼が昼食の締めくくりとして口に運んで行くものは、子供が好むようなものばかりだった。にこにこと食事を楽しむ姿は見ているだけで穏やかな気持ちになってくる。
「良いことだ。大きくなるんだよ」
「鶴さん俺、すでにそこそこでかいんですけど」
座席のあいだに長い足を押し込んでいる葦吾が言った。
電車が減速していく。到着駅に近づくにつれ建物が増えて車道が現れる。
線路を挟んで小規模ながら町が広がっていた。
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