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◆◆◆
「そこで橋本さんの口から出たのが、神隠しという言葉でした」
車体ががたがたと揺れている。
バックミラーに映る草ケ部に対し、長谷川が小さく頷いた。
「橋本の言葉と重複するところがあるかも知れませんが……」
丁寧に前置きをして続けていく。
「先ほどもありましたが、南雲家は長く続く一族でございます。ですが悲しいことに子供が幼くして亡くなってしまうといことが非常に多かった。病気や事故など原因は様々でした。時代によるところもあるかと思います。十五を超えることが出来なかった」
車内が静けさに満ちる。
呼吸や瞬きすらわすれたように草ケ部は長谷川の言葉に一心に耳を傾けている。
「それも決まって長子だけ、秋の彼岸の時季はとくに」
長谷川は薄氷を踏むように眉間にシワを刻んだ。
葦吾はひとしれず息を飲んだ。
となりをちらりと伺うと、草ケ部は口元を手で覆うようにして、目の前にある助手席のシートをじっと見つめている。向けられる視線に気づいていない。
「その悲劇が、南雲家ではなぜか“神隠し”と呼ばれているのです」
「神隠しってあれですよね。忽然と人がいなくなっちゃったりするのにも使いますよね」
「現在当主である南雲イネ……大奥さまも嫁いでこられた当初は神隠しの話など信じておられませんでした。当時、大旦那さまや屋敷の者になにを言われてもまったく動じなかったぐらいです」
当時を思い返しているのか、長谷川の視線が遠くへと流れていく。
道を挟んで広がる黄金色の海原。小さなあぜ道に赤い花弁を花火のように広げた彼岸花が揺れていた。
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