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*** 「やあ、律架。今月も来たね。調子はどう?」 「ああ、そうですねえ……正直言うと歩くのも辛くって。弟にはとても言えないんですけど……この頃は起き上がるだけで眩暈と息切れが」 「ふうん、今日は熱もあるんだって? それは良く無いなあ」  千巡堂医院は今日も空いている。少し癖のある医者にはここ二年ほどお世話になっている。千巡堂東弥(せんじゅんどうとうや)、飄々としているが腕があるのは間違いない。 「青月くんは元気かい?」 「はい、おかげさまで。絵がまた一枚売れたんですよ」 「そうかい、先日見たよ。駅前のカフェに飾られている絵は良かったね」 「……青月は僕の誇りです」 「それは君にとって執着にはなるの?」 「え……?」 「君はその執着を放さない方が良い、生きることをあきらめたらね、早いよ」 「先生……」  でも、あの子は、青月はこんな兄でも良いと言うのか。 *** 「……ただいま、なに、りつか料理なんかしたのかよ?」 「おかえり青くん、今日は調子良かったから久々にね。焼魚と味噌汁しか無いけれど」 「熱出してたくせにどこが良いんだよ、病院も行って来たか?」 「うん、元気だって」 「嘘つけ、顔色悪いぞ。もう寝ろ」  夕食を十分かからずに食べ終えた青月は、エプロンをつけてキャンバス周りを整える。絵の具を揃え、そして息を止めて描き出す。僕は敷きっぱなしの布団に横になってその様子を見ていた。 「締め切りは終わったんじゃないの?」 「次の絵」 「ふふ、売れっ子は良いねえ……」  何かに夢中になれる青春の日、僕にもそんな日々はあった。  だけど、それが幸せだったのかは自分でもよくわからないが。
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