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02
***
「やあ、律架。今月も来たね。調子はどう?」
「ああ、そうですねえ……正直言うと歩くのも辛くって。弟にはとても言えないんですけど……この頃は起き上がるだけで眩暈と息切れが」
「ふうん、今日は熱もあるんだって? それは良く無いなあ」
千巡堂医院は今日も空いている。少し癖のある医者にはここ二年ほどお世話になっている。千巡堂東弥(せんじゅんどうとうや)、飄々としているが腕があるのは間違いない。
「青月くんは元気かい?」
「はい、おかげさまで。絵がまた一枚売れたんですよ」
「そうかい、先日見たよ。駅前のカフェに飾られている絵は良かったね」
「……青月は僕の誇りです」
「それは君にとって執着にはなるの?」
「え……?」
「君はその執着を放さない方が良い、生きることをあきらめたらね、早いよ」
「先生……」
でも、あの子は、青月はこんな兄でも良いと言うのか。
***
「……ただいま、なに、りつか料理なんかしたのかよ?」
「おかえり青くん、今日は調子良かったから久々にね。焼魚と味噌汁しか無いけれど」
「熱出してたくせにどこが良いんだよ、病院も行って来たか?」
「うん、元気だって」
「嘘つけ、顔色悪いぞ。もう寝ろ」
夕食を十分かからずに食べ終えた青月は、エプロンをつけてキャンバス周りを整える。絵の具を揃え、そして息を止めて描き出す。僕は敷きっぱなしの布団に横になってその様子を見ていた。
「締め切りは終わったんじゃないの?」
「次の絵」
「ふふ、売れっ子は良いねえ……」
何かに夢中になれる青春の日、僕にもそんな日々はあった。
だけど、それが幸せだったのかは自分でもよくわからないが。
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