『Red Roses For A Blue Lady』

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「どうしましょう?ご主人には、まだ黙っていた方がいいと思うんです。まだ少し治療はのこってますし…精神的に不安定なので、もう少し様子を見たほうがいいと思うんです」 神経内科の女医、I先生は優しい口調で、私を諭した。白衣の左腕には違う名前が、刺繍されていた。他人のものを着るはずがないので、結婚したばかりなのだろう。 「そうですね、ああ見えて、気持ちが弱いところがあるので…まだ先の方が…」 その日、目の調子が悪いと言って、夫は病院に行った。待合室で待っている最中にどんどん見えなくなっていって、過呼吸で倒れて、色んな看護師さんにお世話になったって、後から聞かされた。 それ以来、パニックグセがついてしまって、些細なこと、病室の移動、視野検査、なんでもない夜中にパニックになり、精神安定剤を処方されていた。 突然視力を失うこと、それは激烈な体験で、彼の気持ちを思うといたたまれない。 これ以上、彼を悲しませるのは、あまりにも酷いような気がして、不治だと伝えるのは、できるなら永遠に先にのばしてあげたかった。
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