留守電

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留守電

「発信音の後にメッセージをおいれください。ピー……『もしもし、(ひかる)君いますか?』」  家の電話に留守電が入った。メッセージを入れるのに慣れていないのか、名乗るのを忘れているようだ。  落ち着いていて良い声だと僕は思う。同級生の(れん)の声だ。廉がメッセージを入れ終わる前に受話器をとった。 「もしもし、廉?」 「光? いつまで学校休んでんの? 漫画借りっぱなしだから、取りに来てくれないと困るんだけど」  連休が終わった後に、続けて一週間休んでしまった。高校に入ってから休みがちで、なんとか二年生になれたのに、また休んでしまった。 「ごめん。明日は行くよ」 「わかった。ちゃんと来いよ」 「うん」  ガチャンと受話器を置いてにんまりしてしまった。廉が僕の為にわざわざ電話してくれたなんて。  僕は廉にあこがれている。廉は背が高くて優しい。女子にはもちろん男子にも人気がある。廉みたいな男に生まれたかった。  次の日の朝、久しぶりに学校に現れた僕に同級生達がおどろいていた。  前の席の女子が 「私が電話した時は来なかったくせに。何で廉が電話したら来るのー?」と不服そうに言う。 「ごめん。廉からも電話あったこと知ってるんだ?」 「みんなでどうしたら光が学校来るか考えてたの」 「ありがと。心配させてごめん」 「大丈夫だよー。明日も来てよね。遅刻してもいいからさ」 「うん」 「あっ、廉が来たよ」  廉が教室に入ってくるのが見えた。窓際で後ろの方の僕らの席までやってくる。廉は僕の隣の席。 「おはよ。光、来れたんだ。よかった」 「昨日、電話ありがと」  椅子に座りながらだと立ったままの廉を見上げるのが結構キツイ。背が高いってうらやましい。 「隣の席の奴がいないと授業中も困るんだよ。英語の時間とかペアになって教科書読んだりするんだから」 「ああっ、そうだった。本当にごめん」 「これ、借りてた漫画。あと光が休んでた分のノート、コピーしておいた」 「うわあ、ありがとう。廉、やさしいなあ。こんなにやさしいのに、何で彼女いないの?」廉はかっこいいから、いつの間にか彼女ができてないか確認してみる。 「うるさいっ」 「男の僕から見てもモテそうなのにね。実は廉、彼氏がいたりして」 「いるわけないだろ」 「僕の事、好きになってもいいんだよー」と冗談っぽく言ってみた。 「本当に好きになったら困るだろ……」  ……えっ、い、今のって……。えーと、僕のこと好きになるかも知れないってこと? 「廉、それって……」  真相を聞きたかったけど、そんな勇気はなかった。担任が教室にやってきて出欠を取り始めた。  憧れの廉が僕を好きになるかも知れないと思ったら、登校も勉強も俄然やる気出た。たまに休むと自宅に電話をかけてくれて、毎朝むかえに行ってやろうかとも言ってくれた。さすがに家までむかえに来てもらうのは悪いから、早寝早起きしてお風呂は家に帰ったらすぐに入って、規則正しい生活を心がけた。  そして三学期の終了式の日。僕は廉に告白することに決めた。僕は廉を好きになっちゃったんだと伝えるんだ。 「廉!」 「あ、光。良かったな、出席日数足りて。お互い無事に進級できて良かった」  と言って僕の頭をポムポムと触る。  僕が遅刻せずに学校に来れるとこれをやってくれた。最初は見下されてる様で嫌だったが、だんだんこれをしてもらえるのが楽しみになった。 「廉、今日はどうしても話したいことがあるんだ」 「俺も光に話したいことあるよ」 「えっ」  もしかして廉も僕のこと好きなの?  「今まで言えなかったんだけど、クラスの皆とをしたんだ」 「えっ、賭け?」  なに、それ……。 「そう。俺が光に……」 「そんな。僕で賭け事してたなんて、ひどい! 廉のバカ!」  僕は走ってその場を去った。 「えっ、待って!」  僕が進級できるか賭けをしてたなんて。僕と一緒に学校生活を楽しみたいんじゃなかったの? 僕を励ましてくれたのは賭けに勝つためだったの? ひどい……。廉もみんなもひどいや……。  僕は廉の声に振り向かず走って家に帰った。 「ハァハァ」  玄関のドアを閉めてその場に座りこんだ。 「廉の、廉のバカ……」  涙で視界がにじむ。くやしくてしょうがない。みんな僕をバカにしやがって。 「ウウ……」涙がボタボタ落ちてくる。  ピンポーン  「光!」廉の声だ。  ドンドンッ ドアを叩く廉。 「うるさいっ!」  ドンドンドンッ  寄りかかってるドアが揺れる。  立ち上がって覗き穴をのぞいた。  髪を乱した廉がいる。 「光。聞こえるか? 開けてくれ」  ドンドンドンッ 「うるさいな!」  僕はティッシュで鼻をかんで、涙を拭いて、ドアを開けた。 「近所迷惑だから入って。うちの親、今の時間いないから」廉を玄関に入れた。 「光、泣いてたのか……」 「何が賭けてただ! ふざけんな!」 「ごめん、光。落ちついてくれ」 「僕が進級できるか賭けをしてたなんてひどいよ!」 「ちがうんだ、そうじゃなくて」  ドンッ! 廉が右手を壁についてきた。 「なんだよ! 威嚇すんな!」  廉の顔が目の前に下りてきた。廉の息がかかる。 「賭けは、俺が光に告白できるかどうかだ」 「へっ?」 「光……好きだ」 「んなッ……!」  ヘナヘナヘナヘナ  僕は腰を抜かしてしまった。 「ひ、光! 大丈夫か?」  ☆  廉が説明する。「えーとつまり、クラスの皆は俺が光のことを好きなのを知ってて、でも告白できてないから修了式の日にちゃんと告白できるか賭けをしたんだ」 「皆どっちに賭けたの?」 「皆は告白できないのほうに。俺は告白してみせるのほうに。一人百円ずつで、俺が今日告白できたから、百円×四十人分で四千円もらえる」 「そうなんだあ。でもなんか嫌な気分だな」 「賭けだと気分悪いか、ごめんな。俺が好きって言えたら、お祝いに皆で百円ずつやるよってことだよ」 「四千円、何に使うの?」 「光がほしい物買うよ。何が欲しい?」  僕がほしいもの? そんなの……。 「僕がほしいのは、お金じゃ買えないんだ」 「お金じゃ買えない物?」 「廉だよ。さっき言えなかったんだけど僕も大好きだよ。進級できたご褒美にキスして」 「わかった……」  廉の顔が近づいてきた。目を閉じなくちゃ。でも廉のキスする時の顔見たいな。  ピーンポーン 「「あ……」」 「光〜、開けてちょうだ〜い」 「お母さんだ……」  邪魔が入った。母に廉を紹介した。廉がかっこいいから、はしゃいでた。いつも僕が学校休むと電話くれる友達だよと言ったら、ものすごく感謝していた。 「これからもうちの子をよろしくね〜」 「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」 「来年も同じクラスでしょ〜? 卒業できるように、うちの子励ましてもらえない? 私が言っても聞かないから〜」 「あ、わかりました。そうだ、まだあと一年あるんだ。油断しちゃいけない。光、一緒に卒業しような」 「うん。僕、廉と一緒に卒業したい!」 「がんばってね〜!」  おしまい
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