3. 男の話

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 たしかに手荷物一つ持たない男の姿は、どう見ても旅をしているようには見えない。店主は、受け入れがたいが受け入れるしかない、という複雑な表情を露わにしていたが、同時に、いつになく興味を持った様子でもあった。  「そうですか、それはいいですね。いや、ただあんまり身軽な感じでいらっしゃるから、正直少し驚きましたけどね」  「着の身着のままの旅なんです。ある意味その日暮らし的な感じですかね。幸い、昔の蓄えがそれなりにあるので、それを切り崩しながら旅しているんです」  「それは羨ましい。私なんてただの雇われ店主ですから、この古びた小さな店とみすぼらしいアパートを行き来するだけの毎日で、旅行なんてもう何年も行ってないですよ。しかも見てください、今日なんてご覧の通り店はガラガラ。長引く不景気のせいか、この前の原発事故のせいか、最近はすっかりお客さんも減ってしまってね。そろそろ潮時じゃないか、店をたたむしかないんじゃないか、なんて話まで冗談交じりにしてますけど、いやこれがなかなか洒落にならなくてね」  店主は思わず愚痴っぽくなってしまったことをどう評価するか判断を委ねるかのように私を見ると、汚れてもいないグラスを念入りに拭きながら、すぐにまた気を取り直して言葉を続けた。
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