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III. 開会冒頭の陳述
翌朝、目を覚ますとすでに9時を回っていました。いつも朝は早い方なのですが、いつ雨になってもおかしくない曇り空に覆われた静かな町で、私は死んだように深く眠っていたようです。
しばらく仰向けで目を開けたまま、カーテンの隙間から外の景色を見るともなく眺めていましたが、起き上がるとすぐに身支度をしました。そして、買っておいたパンをかじりながら、急いで集会所へと向かったのです。
集会所には、すでに数十人ほどが集まっていました。部屋の中央には会議用の大きな円卓があり、数名が席についていました。その他の人達は、周りを取り囲むように配置された椅子に座っていました。
円卓の人達には個々に水が用意されていて、身なりもしっかりしているところを見ると、この会のために特別に招待された人達だろうと察しがつきました。
「どうぞご自由にお座りください」
どこからか声がしたので、私は入り口付近の椅子に座りました。運営係りと思われる人が、参加者に紙を配って回っていました。私も一枚受け取り、見ると、あの絵の写真を印刷したものでした。
「えー、それでは、そろそろ時間になりましたので始めさせていただきます」
部屋の一番奥で円卓の席についていた女性が立ち上がりながら話し出しました。昨日掲示板の横で拡声器を持って話していた女性でした。
「この度は、わざわざこのような会にお集まりいただきましてありがとうございます」
円卓についていた人達は、一斉に眉をひそめ、あからさまに女性の方を睨みつけつける人もいれば、うつむいて目を閉じている人もいました。「わざわざこのような会」というネガティブな言い回しが気に入らなかったようです。
しかし女性の方も、これもまたあからさまに、いかにも煩わしさそうな事務的な開会宣言をしたことに、何も臆することはないと言わんばかりの不敵な無表情を貫いていました。
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