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「昨日もお伝えしましたが、今回の絵の騒動につきまして、上層部および本庁に再度確認いたしました。結果としては『何も関与していない』とのことでございました。ということは、これまでも皆様からも多く意見のございました通り、ただの悪戯と考えてもおかしくないわけでございますが、ここにこうしてご出席いただきました芸術振興会の方々の強い意向によりまして、また、今日は不在にしておりますが、町長もそれに賛同する旨を確認いたしましたので、これよりこの絵についての意見交換および取り扱いの検討を始めさせていただきたいと思います」
いかにも仕方なく開催するという雰囲気を全面に押し出している様が、部外者の私にもすぐに伝わる話しぶりでした。
「まずは着座いただいている振興会の方々より意見をいただきたいと思いますが、周りの皆様も、随時意見などありましたら発言いただいてて構いませんので、遠慮なくよろしくお願いします」
そう言うと、女性は着席して水を少し口にしました。そして、誰から話すのかと確認するかのように、円卓の人達の顔を見回しました。
すると、真っ先に発言したのは赤いスーツに濃紺のブラウスを着た女性でした。
「それでは、芸術振興会を代表してまずは私から一言申し上げます。まず、この度は私共の要望を汲んで、このような場を設けていただいた町長にお礼を申し上げます。そして早速ではありますが、結論から申しますと、私共はこの絵を非常に高く評価しています。紙質、絵の具、構図、色合いなどどれをとっても一級品です。決してただの悪戯とは思えない作品です。ぜひとも、この作者には早々に名乗り出ていただきたいと切実に願っております。ですので、作者が現れるまでの間、引き続き掲示いただくことを強く希望しますが、もっと言わせていただくと、風雨に晒されている今の状態では作品の劣化が懸念されますので、できれば美術館に移送して適切な環境で保管するのが最善かと考えています」
「この町に美術館なんてあったのか」などと周囲からささやきが漏れ聞こえました。
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