Day 2

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 「佐山さん?あいにくあなたので大好きなビールは切らしているんだが、スコッチてもいいですかね?」  「あ、はい。少っし、で」  「ん?…あぁダジャレね。相変わらず面白いなぁ、佐山さんは。じゃ〜『スコッチ』ね」  「あ、はい。お願いします。すみません」  私は二人分のスコッチをティーテーブルに運んだ。  「ま、どうぞどうぞ。とりあえず乾杯だ。再会に乾杯!」  佐山さんは一気に飲み干した。  「いや〜、相変わらずいい飲みっぷりですね。でもこれビールじゃないですからね?念のため…」  「あ、はい、すみません。ちょっと喉が渇いていたもので」  「いやいや、いいんですよ、もちろん。そりゃもうどんどんやってください。いつも私一人じゃなかなか飲みきれないんで。もう一杯注いできますよ。あ、いや、ボトルごと持ってきましょうかね。そうだ。その方がいい」  私はまたバーカウンターに行きボトルを手にした。  「あと、ツマミなんかも要りますよね?チーズとかナッツとか?」  「いやいや先生、そんなに気を遣っていただかなくて大丈夫ですよ。急に断りもなく押しかけて来たんですから。申し訳ないです。ナッツだけで大丈夫です」  「え?ナッツだけ?あ、ナッツだけね。あ〜そうそう思い出しましたよ!佐山さんはチーズがあんまり好きじゃなかったですもんね」  「あ、いえ、別にそういうわけじゃないんですが。チーズも結構好きなんで」  「え?好き?あ、そうなのね。なんだ水臭いな〜、遠慮しないでくださいよ。ならチーズも出しますからね」  私はボトルとツマミを持ってそそくさと戻った。  「いや〜、それにしてもビックリしましたよ。まさか佐山さんにこうしてお会いできるとは夢にも思ってなかったんでね」  「あ、はい、いや私も、私自身、急に伺うつもりもなかったんですが。不思議なものですね。体に染みついているんでしょうか。先生のお宅の近くに来たら、ついつい足がこちらに向いてしまって。昔よく通わせてもらった習性というものなんでしょうか」  「ははは。そりゃもう、昔は二人で、それこそ二人三脚で、散々苦労しましたもんね!」  私は久々に心置きなく話せる相手と対面して、少しテンションが上がっていた。  「はい、本当に…大変でしたね。苦労しました…」  佐山さんは大きくため息をついた。本気で深刻そうなため息だった。  「え?あ、まぁそうですよね…でもそんな急に本当に深刻そうにしないでくださいよ。たしかに佐山さんには苦労をかけましたよ?まぁ、それもこれも私にもっと才能があれば…」  「いえ、先生のおかげです!先生と一緒にお仕事させていただいたからこそ、こんな私でも、なんとか編集者として生計を立て、定年まで全うできたわけですから!」  さすがにスコッチの一気飲みが効いたのか、普段は物静かな佐山さんも多少口調が変わってきた。  「先生には才能があります!長くお供した私が言うんだから間違いありません!でも敢えて言えば、先生に足りなかったのは『運』です!運だけです」  「あ、ありがとう。そう言われると救われた気がするよ。まぁでも運も実力の内だからなぁ〜」  「私は先生に長年付き添った編集者であり、先生の唯一のファンでもあり…」  「いやいやちょっと待って『唯一』ってことはないでしょ。さすがに私だって、それなりにファンはいますよ?たとえば、佐山さんと最後に手掛けた作品…え〜っとなんだっけ…あの、あれ…あ〜度忘れした」  「『記憶の断層』!」  「あ、そうそう『記憶の断層』!あれだって何万部か売れたでしょ?」  「2千部弱です」  「え?あ、そうでしたっけ…。あれは、自分としては結構好きだったんだけどなぁ」  「先生、昔から何度も言ってますけど、自分が好きなのと売れる作品は違うんですよ!」  「あ〜はいはい、そうそう。昔から何度も言われてますね…。いや〜なんだか懐かしいなぁ、この感じ!そうやっていつも佐山さんに諭されてましたもんね」  佐山さんも私もすっかり昔のノリで話にも花が咲き、もはやスコッチが「少し」ではなかった。
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