Day 2

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 「ところで、先生の方はいかがですか?実は私、先生のことが心配で。今回立ち寄らせていただいたのも、実はそのためだったりするんですよ」  「いやいや、すまないね、心配かけちゃって…。まぁ、おかげさまで元気にはしてますよ。相変わらずヒット作はまだですけどね…」  「いや、実を言いますと、私のところにまだ昔のツテで、いろいろと情報筋から話が入ってきたりしまして…。先生についても…あまり面と向かっては言いにくいですが…」  「いやいや、私と佐山さんの仲じゃないか。遠慮なく言ってくださいよ!もはや私もだいたいのことは承知しているつもりだし…」  「そうですか?いや、実を言いますと、業界筋の間では『和久正雪はもう死んだ』っていうのがもっぱらの共通認識らしいんですよ…」  佐山さんはグラスを指先で神経質に触り始めた。それを見た私も少しナーバスにならざるを得なかった。  「ははは、そうなの?ははは…な〜んだ、馬鹿馬鹿しい。みんなそんなこと言ってるの?いや〜本当に馬鹿馬鹿しい…ゴホッ、ゴホッ」  なぜか私はわざとらしく咳き込んだ。  「もちろん比喩だとしてもですね…私は先生のことが本当に心配になってしまって…実はそのせいもあって今日ご連絡させてもらった、というのもあるんですよ…」  「そうやって気にかけてもらえるのは嬉しい限りですけど、いや〜本当に馬鹿馬鹿しい。暇なんですかね?みんな。きっと。ね〜…」  私は変に冷や汗をかいていた。とりあえずスコッチを一杯飲み干した。  「死んでませんよ。当たり前ですよ。たしかに最近少し文壇からは距離を置いてますよ?でも、死んでません」  佐山さんはなぜか無反応だった。でもそのおかげで、私も少し落ち着きを取り戻した。そしてこう言った。  「死んでない。でもそれを言うなら『シンガナイ』ですかね」  これはさすがに佐山さんも理解できなかったようだ。「は?」と聞き返してきた。  「『芯がない』そういう言ったんですよ。要は、玉ねぎみたいなものだ。剥いても剥いても最終的には芯がない。そういうこと。空っぽ。つまり今の私はまさに空っぽなんですよ」  私は自分でも何が言いたいのかよく分からなかった。
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