Day 2

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 「いやいや先生。何度も言いますけど、私は先生に長年付き添ってきた。だから分かりますよ。先生にはしっかり中身がある!本物ですよ!先生の大好きなマトリョーシカだってそうじゃないですか?最後には中身がある!かなり小さいですけど」  「え?かなり小さい?…でもありがとう。今思えば、私は今までそうやって、あなたに、佐山さんに勇気づけられて、ここまでやってこられたんだな…」  「いやいや先生の実力の賜物ですって!私は本当に感銘を受けてきたんですから!」  そう言うやいなや、佐山さんはどこからか爪楊枝を取り出し歯の掃除を始めた。無心に私を見つめる彼の目がなぜか少し怖かった。それから佐山さんはまた話し出した。  「先生、実はですね?犬が居なくなって、本格的にやることがなくなったものですからね?実は、先生を目の前して言うのもおこがましいんですがね…」  「なんですか?勿体ぶらないで」  「あ、はい、すみません。実はですね…私も先生の見様見真似で…小説を書いてみたんです!いやなに、小説と呼べるほどのものではないんですがね。門前の小僧ですかね?習わぬ経を読んでみたんです…」  「ほー!それは素晴らしい!是非とも読ませてくれたまえ、是非是非!」  「本当ですか?ありがとうございます。いや、本当に人様にお見せできるような代物ではないんですが… まぁでも、見ていただくなら、やはり先生に一番にみていただくのが最善かと」  「そりゃそうさ!そんな話なら、なにを差し置いたって読ませてもらいますよ!当たり前です。それなら早速、今度コピーを送ってください」  「あ、はい、ありがとうございます!実は、そんなこともあろうかと思い、今日コピーを持ってきたんです」  「え?そんなこともあろうかって…それって最初から準備してたってことですよね?うん、まあいいや。佐山さんらしいや。昔から何事にも用意周到でしたもんね。それで私も散々助けてもらったわけですから」  佐山さんはすかさず鞄から書類を取り出し、私に手渡した。  「お〜、これはこれは。なになに?タイトルは『一枚の絵』?お〜、これはこれは。おもしろそうじゃないですか」  「ありがとうございます。先生を見習って、先生のお得意な劇中劇の構成にしてみました」  「なるほど!それは読むのが楽しみだ。なになに?ペンネームは『佐久忠作(さくちゅうさく)』?」  「あ、はい、僭越ながら先生にあやかって、作中作とかけてみました!」  「素晴らしい!いやはやこれはたまげた。まさか佐山さんが執筆を始めるとはね」  「はい、自分でもまったく予期していませんでした。これも一重に先生のおかげです。あ、ちょっと待って!今ここで読まないでくださいね?とてもじゃないですが恥ずかしくていられませんから…」  「分かった分かった。じゃ、後でゆっくり読ませていただくよ。いや〜それにしても楽しみで仕方がない」  その後、私たちはしばらくたあいもない昔話に明け暮れたが、ひとしきり話し尽くすと、佐山さんは何度もお礼の言葉を述べて帰っていった。  私はとにかく佐山さんの原稿を早く読みたくて、何はさておき一目散に書類を手にとり、我を忘れて作品に目を通し始めた。
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