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2. 風の夜の来客
季節はずれの強い風に煽られるかのように、一人の男が店に舞い込んできた。コートの襟を立て、風に飛ばされないようにするためか、帽子を深々とかぶり手でしっかりと押さえていた。男は勢いよく入ったのが何かの間違いだったかのような表情を浮かべたものの、静かに店の中を見回すと、おもむろにカウンター席まで来て立ち止まった。私はいつものようにそのカウンターの片隅でビールを飲んでいた。
「いらっしゃい。一人ですか?」
店主は、この新しい客に親しみを込めて歓迎の挨拶をした。男はそれに応えたとも応えていないともいえない素振りで、カウンター越しにビールサーバーやワインクーラーを眺めていた。まるで生まれて初めて見る景色に、好奇心を無理やり押し殺すかのように、ただ黙って立っていた。
「何か飲みますか?帽子やコートは向こうのハンガーにかけていいですよ?」
店主は間の取りにくさを感じながらも、相手の様子を見ながら丁寧に案内した。男は後ろに振り向いてハンガーの位置を確認したが、まったく興味はないと言わんばかりに、帽子をさらに深く押さえると、そのままカウンターの席にゆっくり腰を下ろした。
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