ピーターパンの悩み事

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ピーターパンの悩み事

 ネバーランド。  そこに住むのは全員が子供で、外からやってくるお客さんも全員子供。大人は一切居ないし、入る事も許されない。  お菓子を食べる事や、遊ぶ事、洋服を汚す事に口うるさく言う大人なんて1人も居ない、まさに素晴らしい「夢の国」だ。  遊びたい時に遊び、食べたい時に食べて、眠くなったら眠る。  ネバーランドの子供達はみんな、そうやって夢のような時間を過ごしている。  そんな子供達のリーダー格であるピーターパンも毎日を面白おかしく過ごしている。  過ごしていた、のだけれど。 「あー……あー…………うーん、やっぱ何かおかしいんだよなぁ」  ベッドの上であぐらをかき、発声練習の真似事をしてみる。  ネバーランドは「夢の国」で、子供達は毎日楽しく過ごしている。ピーターパンもほんの数日前まではそうだったというのに、最近ではこうやって悩むようになっていた。  なんだか体がおかしい気がする。  お腹は痛くないし、頭も痛くないし、歯もズキズキしないのに、なんだか体がおかしい。  どこかにぶつけた覚えもないのに、手足は痛い気がするし、飛んでいる時の動きがなんだかチグハグに感じる。まだ飛び慣れていなかった時に、手と足を同時に動かしてしまったみたいな。  そのせいで空中で急に飛べなくなって落ちそうになった事も、最近じゃ珍しくなくなっていた。  今1人で発声練習の真似をしているのも、声がなんだかおかしいと思ったからだ。  風をひいたワケでもないのに、喋ろうとすると声が掠れている気がして、上手く声が出てこない。  今の発声練習だって、自分の声に聞こえないし、ガサガサに掠れていた。 「ボク、どうしちゃったんだろう?」  思わず呟いた独り言も、ガサガサに掠れている。ボクの声はもう少し高くて、よく通る声だったのに。  ワケも分からず体だけがおかしい今の状態がピーターパンには不安だった。  それにネバーランドは「夢の国」。  食べ過ぎればお腹が痛くなったり、歯がズキズキする事はあるけれど、悩む子供なんて誰もいない。みんながみんな、楽しく暮らす国だ。  ピーターパンもほんの数日前はそんな子供の1人で、悩みとは無縁に暮らしてきた。  だからピーターパンにとっては初めての不安で、初めての悩みだ。  だからこそ余計に怖くなって、1人で居る時には、ベッドの上で縮こまることが多くなっていた。  一応リーダー格である自分が他の子供に相談をするなんておかしいし、子供達の相談と言えば遊びの相談に決まっている。「体がおかしいんだ」「声も出ないんだ」なんて相談、変だ。  それで尚更、ピーターパンは1人で縮こまってはうんうん唸って、ずっとずっと悩んでいた。  だけど、もう1人で悩んでいるのも限界だ。日に日に体は重くなって飛べる時間も短くなっているし、手足はズキズキするし、声だっておかしい。あごもザラザラ、ちくちくしている。 「ティンクなら、なにか分かるかなぁ……」  掠れた声で呟いたのは、ピーターパンの1番の仲良しの妖精、ティンカーベルだ。  彼女とはいつも一緒だったし、1番の仲良しだから、ピーターパンが悩んでいるのを知っても笑ったりせずに、相談に乗ってくれるかもしれない。  そう思ってピーターパンは、ティンカーベルの家に向かって歩き出した。いつもなら簡単に飛んで行ってしまうのだけれど、最近はほんの数メートル飛ぶだけでも凄く疲れてしまうから。
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