彼氏はゾンビ

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  早川詩織の彼氏である三村大樹くんが死んだ。喉に食べ物を詰まらせて窒息死したと大樹くんのお兄さんから聞いた。詩織は信じられない気持ちでいっぱいだったが、通夜に呼ばれた時、悲しみが現実として襲ってきた。通夜には高校のクラスメイト全員が呼ばれた。大樹くんは人気者でしかもイケメンだったので、みんなの落胆は激しかった。  通夜には制服を着た。そのままでは少し派手だと思ったので赤いリボンは外して紺色のブレザーに緑と紺のチェックのスカートに髪を一つに束ねて行った。詩織と大樹くんは家族に公認の仲だったので、大樹くんのお母さんは詩織を見るなり泣いていた顔にますますの陰りを見せてハンカチを目にあてた。暗く淀んだ詩織の気持ちが解ってくれたのだろう。 「詩織ちゃん、私たちが付いていながら、こんなことになってゴメンなさいね」 「いいえ、誰のせいでもないですよ」  詩織はそう言うと込み上げる悲しみを飲み込むようにして祭壇に目を向けた。白い花が左右から楕円状に置いてあって、脇には学校や会社の名前が書いてある供花が置いてあった。 「大樹くん・・・」  そう言うと、暫く茫然と立っていた。涙が次から次へと溢れてくる。我慢が限界になってきた。 「うわあん、うわあん」  詩織は棺桶の前で泣き崩れそうになった。  トントン、トントン、  ふいに何処からかノックの音が聞こえた。棺桶から聞こえた気がする。詩織は大樹くんの顔が見える小さな窓を開けた。白い顔をして穏やかに眠っている顔が見えた。 「うわあん、うわあん」  詩織はまた泣き始める。大樹君のお母さんがそっと背中に手を添えた。
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