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ナオミは体育のことで憂鬱になりながらも、風邪をひいた日のことを思い出して顔が綻んだ。ユウタくんの良いところはそれだけではない。一度だけだったが夏に学校帰りに側溝に足を落としてしまったとき、笑わないで助けてくれたことがある。
そんな面映ゆい小学生時代にもやはり嫌な事件があった。ナオミが学校から帰ってピアノ教室に行くときにハンチング帽を目深に被った男の人に声を掛けられたことがあった。
「お嬢ちゃん、何処に行くの?」
「ピアノ教室だよ」
「そう。俺がおしっこするの手伝ってくれないかな」
男の人は下半身を露出した。
「きゃあ」
ナオミは怖くなって叫び声をあげた。
「何してんだよ!」
ユウタくんが駆けつけてきて男の人に体当たりした。
「このガキ」
「ナオミちゃん、逃げよう」
手を繋いで住宅街を全速力で走った。それからピアノ教室はユウタくんが送ってくれるようになった。男の人は度々現れたが声を掛けづらかったのか遠目で見ているだけで済んだ。こんな色々なことが積み重なりナオミはユウタくんが大好きになった。
門を抜け学校へ着くと階段を上って6年生のクラスへ行く。廊下でバイバイをして別れた。
「相変わらずラブラブだね」
同級生で同じクラスの優真ちゃんが冷やかしてきた。
「挨拶しただけだよー」
「そお?毎日欠かさず挨拶してるじゃん」
「幼馴染だからね」
ナオミはそう言って教室に入るとランドセルを机の上に置き教科書を取り出した。国語、算数、理科、社会。どれも好きだが国語が特に好きだ。漢字テストはいつも100点だったし、作文コンクールも賞を取った。逆にユウタくんは勉強が苦手だという。それをお母さんに言ったら「ユウタくんは少年サッカーをやっているでしょ。そこで活躍してるじゃない。天は二物を与えずっていうんだよ」となんだか分からないことを言った。
一時間目は大好きな国語だ。象の絵が描いてある教科書を机の上に置く。今度ユウタくんに小説の良さを教えてあげようと思った。
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