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大魔の手1
この物語は、第二次世界大戦末期頃の話だ。このころのドイツの支配者・アドロフ・ヒトラーはユダヤ人を強制収容所に収容していた。しかし、一組のユダヤ人親子が何らかの方法で、収容所を抜け出したのである。その一組の親子がこの物語の主人公だ。父の名は、ファントリドス。息子の名前は、パトロック。この一組の親子は、車を入手できず馬でヒトラーの兵士達から逃げていた。すると三人の兵士達のうち、一人が、拳銃で親子を撃ってきた。しかしファントリドスはひゅんひゅんと弾をよけ道端に落ちていたライフル銃を拾い三人の兵士達を撃ち果たしたのだ。それもそのはずここは第二次大戦の戦いの場だったので、銃はいくらでも落ちていたのだ。その知らせを聞いたヒトラーは、「自分で収容所にぶち込んでやる! やつも馬に乗っているならこちらも馬で乗り込んでやる!」と言い放った。その頃、ファントリドスは戦いに疲れて休んでいた。なにせライフル銃を使うのは初めてだったのと初めて使ったのにもかかわらず人三人を殺してしまったのだから気持ちが失せてしまったのだ。すると馬のひづめの音が聞こえてきた。するとパトロックが、嵐の夜中に馬で行くのは誰? と恐る恐る言った。それを聞いたファントリドスは急いで馬を走らせた。その馬に乗っているファントリドスは昔の馬に乗った楠木正成のような勇ましい顔をしていた。ファントリドスはパトロックを腕に抱いている。まるで魔王・ヒトラーから息子を守っているようにしっかりと暖かく抱いてた。話は変わるが、このころのヒトラーは乱心であった。それはそうだ。ドイツは負け国になろうとしていたのだから。
すると、ファントリドスが、「息子よ、なんでそんなにおどおどと顔を隠すのかい?」と聞いた。そこでパトロックは「お父さんには魔王が見えないの? 冠つけて 長い裾をひいた魔王が」と言いった。そのときファントリドスは、一瞬ビクッとした。パトロックは目が見えないのになぜ魔王が追いかけてくることが分かるのだと恐ろしくなったのだ。しかし一つ違う点があった。それは、冠や長い裾をヒトラーは身に着けていないことだった。父は、そんなことを気にも止めず馬で逃げることをなんとパトロックに言っていいか、その二つしか考えていなかった。その時、前方に霧がかかっているのが見えた。しめた! とファントリドスは思った。ファントリドスはパトロックにいいわけを言った。「息子よ、それは霧のつくる筋模様だよ」。しかし、パトロックはそれを信じなかった。それどころかパトロックは、「見えないの? 拳銃とマシンガンを持ったヒトラーが!」ファントリドスは失神しそうだった。なぜ、なぜ、パトロックは見えるのだ! 父は驚きのあまり言い訳をなくした。
しかしいい方向に行ったのか悪い方向に行ったのか魔王・ヒトラーが「愛らしい子よ、おいで、私と一緒に行こう とっても楽しい遊びをしようよ 岸辺には色とりどりの花がさいている 私のお母さんは金の衣をたくさんもっているよ」とささやいてきたのだ。ファントリドスは、パトロックを見た。するともう情緒不安定のような顔でこちらを見ていた。ファントリドスはある妄想をした。それはパトロックがヒトラーやその家族と一緒にわいわい大騒ぎをしている姿だ。しかし息子は楽しんでいない。そういう妄想だった。五年前パトロックの母・ファトリーナはヒトラー率いるナチス軍の兵士に弾を四発頭にぶち込まれた。それで死んでしまったのだ。ファントリドスはその恨みと深い悲しみに明け暮れた。その後ファントリドスは深い悲しみより恨みのほうが勝ってしまった。よし! 殺してやる! と思った。しかしここでもしヒトラーに弾を当てて死なせてしまったら、ドイツ国民二千万を敵に回してしまう。それだけはダメだ。じゃあせめて怪我をさせるだけだったらいいと思った。そして手に持っていたライフル銃をヒトラーに撃った。弾は肩をすり抜けて当たらなかった。
そしてファントリドスが、リロードをしているとき腕に抱いていたパトロックが、言葉を発した。「お父さんお父さん 聞こえないの 魔王のささやきかけてくる声が?」ぐあーーーー! 来た、来てしまった、息子の二回目の問いかけが! もう言い訳が見つからない。将棋でいう詰みだ。ふと、ファントリドスがパトロックを見ると早くなんか答えてくれ、という顔でこちらをガン見していた。これはなんらかの言い訳をしなくちゃと言い訳を探した。すると! 天の助けか枯れた葉を風がカサカサと言わせていた。よし! これだ。ダメもとで言ってみおう。「枯れた葉を風がカサカサいわせてるんだ」パトロックはなおもガン見していた。ファントリドスはこの重い空気の場から逃げ出したかった。その空気を刀で切り落としたように魔王・ヒトラーが拳銃でこちらを撃ってきた。ファントリドスは一瞬、感謝の言葉をヒトラーに言いたかった。しかしこの弾にもし当たっていたら死んでいたのだ。そのことを考えるとやっぱり許せなかった。その思いがどんどん湧き上がってきてライフル銃をまた手に持った。今度こそ当ててやると、一発撃った。しかし当たらなかった。
ライフル銃のスコープを覗いていると魔王・ヒトラーがまたささやいた。「かわいい子 よ、一緒に来ないかい? 娘たちは君を待っているよ 娘たちは夜毎にダンスをするんだよ 踊ったり歌ったりして、君を寝かしつけてくれるよ」また出た! このでたらめのささやきが・・・そう思っていた。しかしふと、、考えてみた。こんなに離れているのになぜヒトラーの声が聞こえてくるのだ? と疑問に思ったのだ。魔王とだいたい百メートルぐらい離れているのになぜ聞こえてくるのだ? ファントリドスは考えた、もしかしたら超能力? なぜファントリドスがそう考えたのかというと、第二次世界大戦開戦当初のナチス軍を率いたヒトラーは、異常な力を持っていたからである。まるで力でヨーロッパを統一しそうだったナポレオンと知識では負けなしの日本の武将・真田昌幸を掛け合わせたような力だった。しかし超能力の力が一九四三年の冬ごろから急速に力が衰えていたのだった。ということは、もうヒトラーには超能力の力がないのだと感じた。じゃあこのささやく声は何だ? 三分ぐらい考えているとふとファントリドスは恐ろしい妄想をしてしまった。それは、こういう時のために力を蓄えていたのかもしれないと思ったのだ。こういう時のためとは、もし収容所にいるユダヤ人や兵士、家来衆たちが裏切った時、超能力でまた呼び戻すということだった。そうすればつじつまが合う。
そんなことをいろいろ考えていると、抱いていたパトロックがまた発言した。「お父さん、お父さん、あそこに見えないの? あの暗がりに 魔王の娘たちが?」こうなるともうファントリドスは彼の言うことすべてが恐ろしく感じてしまうようになってしまった。だが、ファントリドスはちゃんと見えていた。その蜃気・・・蜃気楼! そうだ! 蜃気楼だ!
いままで見えていたのは蜃気楼だった。ヒトラーの出していた超能力の蜃気楼だった。岸辺にさいている色とりどりの花も、ヒトラーの住んでる城でダンスしていたのも全部、蜃気楼だったのだ。ヒトラーはその蜃気楼で息子を狙っていのだ。しかしなぜ息子を狙っていたのだ? ファントリドスは考えた、自分が収容所から抜け出した時から今までの行いを振り返ったのだ。すると一つ思いついたのが、息子がこの蜃気楼を本当だと思い、こちらに飛び込んでくれば、父も安全を確認しにこちらに来るのではないかと。ファントリドスはもう引っかからないと思い、必死に銃で撃ち続けた。だが当たらない。しかも、今ここは一面野原なので息子に言ってきた言い訳はもう思いつかない。こうなったら息子の目が見えないのを利用して、まっぴらのウソをつくしかなかった。パトロックには申し訳ない思いをしながら「息子よ、息子よ、父さんにははっきり分かる 灰色をした柳の老木が そんなふうに見えるんだ。」 と言い訳を言った。
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