しのぶもぢずり

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しのぶもぢずり

 まるで、地面まで夕日に包まれたみたいだ。 「ふわぁ……! 見て、おうちゃん。今年もきれいだねぇ」  ゆったりとした足取りで僕の前を歩く彼女は、のん気そうに感嘆の声を漏らした。  どこまでも遠くそびえる大木。(あか)く色づいた葉で幻想的に染め上げられた地面を彼女が踏みしめるたび、その背中に伸びる墨をこぼしたように(あで)やかな髪がなびく。  彼女はふいに足を止め、右を向くと、立ち並ぶ木々のほうへ片手を差し伸べる。白い着物の袖がふわりと揺れた。上品な所作も相まって、僕が着ている黒い無地の着物より何十倍も美しく見えるそれは、目に映る景色と同じく、秋色の葉を散らしている。 「紅葉(こうよう)の色合いって不思議だよね。絵の具なんかじゃ絶対作れないと思う」 「そうだね」  はらはらと風に舞うえんじ色を眺めながら呟く横顔に答えると、彼女はとたんに「あっ」と声を上げた。 「そうそう。雪にいは元気? たしかもうじき二十二になるよね? あの派手な彼女とはまだ続いてるの? そろそろ結婚とかするのかな」 「分かんないよ、そんなの」
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