しのぶもぢずり

12/17
前へ
/17ページ
次へ
桜輔(おうすけ)」  ふいに名前を呼ばれて、またはっとする。 「いい名前だよね」  微笑み交じりの一言に、僕もあわてて笑顔を作った。 「姉ちゃんだって」 「そうかな」  おばあちゃんのセンスに感謝しなきゃ、とふたりで笑い合ったとき、薄く透けた彼女の体が、蛍のような淡い光を放ち始める。  いつの間にか、周囲もあたたかな黄金色(こがねいろ)(くる)まれていた。そろそろ時間らしい。  大丈夫。  彼女はこの後も、天からのお告げに抗うように三十分ほどひたすらに喋り続け、いよいよ体が消えようという頃になってようやく「また来年ね」と言って笑うのだ。  今までずっと、ずっとそうだった。だから、大丈夫だ。 「ねえ、おうちゃん」  その呼びかけには、確かな決意が滲んでいて、心がいやにさざめく。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加