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彼女が静かに息を吸ったとき、とっさに耳を塞ぎたくなったけれど、かたくこぶしを握ってこらえた。
「私、これで最後にしようって決めたの」
優しく、力強い宣言。それが、すべてを物語っていた。
「どうして?」
それでもなお、僕は問う。
「それはほら、今年でちょうど十年目だし、私も二十歳になったでしょう? だから、いい加減向き合わないとなって」
ことさらに明るい声でそう告げた彼女は「ごめんね」とでも言いたげに苦笑した。
「待って」
僕は、なんてわがままなんだろう。
分かっている。今までが奇跡みたいなことだったのだ。もうこれ以上、現実を拒むことは許されない。
けれど、だったら、せめて――
「本当に、最後ならさ」
八畳間の和室に、家族四人が、約十年ぶりに顔をそろえた、
部屋の奥の窓際に僕と彼女が並んでひざを折り、その向かい側に祖母と兄が座る形だ。
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