しのぶもぢずり

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 彼女は、別れの時間が近づくとやたら口数が多くなる。その証拠に、木々の隙間から覗く青は、少しずつ(だいだい)を受け入れ始めていた。 「ってことは、おうちゃんは……もう高校生なのかぁ! どう? 高校楽しい?」 「うん、まぁ」 「なんかさぁ、すごくおっきくなったなって思ったんだよね。そうだ、背比べしようよ」  無邪気にそう言って踵を返し、小走りでこちらへ向かってくる彼女。と、 「ふぎゃ!」  途中で足を滑らせたのか、あるいは着物の裾を踏んだのか、大きくつんのめった。  とっさに差し出した手が彼女と触れ合うことなくすり抜けた瞬間、あらためて悲しい事実を強く認識する。 「いったぁ~……くないんでしたぁ。てへっ」  おどけながら体を起こして紅い絨毯に座り込み、あどけない笑みを浮かべる彼女。甘く胸をしめつけられる一方で、後悔という名の苦みが募っていく。  幽霊でも転ぶんだね、足地面についてないのに。なんて笑い飛ばせたらよかったかもしれない。でも無理だった。
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